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スリーボンド 研究開発本部 開発三部 オートアフターマーケット開発課 課長 久保山 俊史 さん/近藤 悠一郎 さん

投稿日時
2025/10/15 16:33
更新日時
2025/10/15 16:38

「美しさ」や「艶感」を数値化
素材から見直し、防汚・耐久性の高いコーティングを実現

自動車のコーティングに求められる「艶やかさ」や「深み」。これまで感覚で語られてきた価値を、徹底した分析で数値化する技術者がいる。シール剤や接着剤のリーディングカンパニー・スリーボンドでボディコート開発を担う久保山俊史さんと近藤悠一郎さん。二人は感覚頼みの分野に科学的な裏付けを与え、業界に新たな常識を生み出している。

ボディコート領域の開発を手掛ける久保山俊史課長【写真左】と近藤悠一郎さん【写真右】。手に持つのは同社史上最高水準の滑水性、防汚性を誇る「ウルトラグラスコーティング T-Premium」

自動車エンジンのシール剤や接着剤のトップメーカーとして知られるスリーボンド。その強さを根底で支えるのが、業界トップレベルの研究・分析設備を基盤とした研究開発力だ。神奈川県相模原市の「R&Dセンター」には、光学顕微鏡や電子顕微鏡、各種環境試験機、熱分析装置、耐候性試験機などがずらりと並ぶ。

「装置を使うのは開発段階だけではありません。我々は何かあるとすぐ観察するという姿勢が染みついています。起こっている事象がわからなくても、ここには深掘りできる装置が揃っています」と語るのは、研究開発本部 開発三部 オートアフターマーケット開発課 課長の久保山俊史さんだ。実際、自動車ボディで外観不良の不具合報告があった際、光の当て方や種類を変えながら顕微鏡で表面観察したところ、表面に無数の穴があいていることを発見。メーカー自身も気づいていなかった事実で、塗装工程の改善のために情報提供を求められるほどだった。

久保山さんが開発に携わる製品の一つが、自動車のボディコーティング剤。ホームセンターやカー用品店などで売られている市販品ではなく、メーカーが純正として扱う製品だ。最終ユーザーには施工された状態で届くため、いわばメーカーの「顔」にもなる存在だ。

「参入当初のボディコーティング分野は、『美しさ』や『艶感』といった感覚的価値が主流でした。しかし純正品として採用いただくには、品質保証と同時に、感覚的価値を裏付ける必要がありました。当社は分析技術を駆使し、感覚を数値化して価値を客観的に提示しました」(久保山さん)

例えば、コーティングを施したボディは、未施工のものに比べて色に深みが出る。従来は「なんとなくそう見える」とされていたが、同社は表面の微細な凹凸が光を乱反射させることに着目。コーティングで平滑化することで、ボディ本来の深みある色味を引き出せることを突き止めた。この「感覚の見える化」により、完成車メーカーが保証付きで自信をもって提供できる基盤を築いた。

■「撥水」から「滑水」へ

現在、成長市場となったオートアフターマーケット関連。さらなる成長に向け、久保山さんと同開発課の近藤悠一郎さんの開発チームは、感覚の見える化だけでなく新たな価値提供に力を注ぐ。

「従来、コーティング分野では『撥水性』の高さが性能の一つの指標とされてきました。撥水性が高いと水が玉のようになりコロコロと流れ落ちるため、ボディに水滴が残りにくく、シミや汚れを防止できるという理屈です」(近藤さん)

コーティングの施工実感や雨天時の見栄えで言えば撥水性が有効になる。だが、撥水性が高いだけではボンネットやルーフなど平らな部分では、水が玉状になるだけで留まってしまいウォータースポット(汚れ)の原因となっていた。そこで着目したのが「滑落角度」。水滴が滑り落ちる角度のことを指し、より少ない傾斜面でも水滴が流れ落ちるようにすることで、ボディ上に水滴が残りづらくなり、結果的に汚れにくい塗膜となる。

「オイル量を増やせば滑落性は高められますが、性能を維持するのが難しい。独自に『滑水性』という指標を作り、原料メーカー様と一緒に素材開発に挑みました」(久保山さん)

新車のコーティング剤となると少なくとも5年は一定以上の品質を維持しなければならない。共有結合を利用した非常に強固な化学結合の素材を新たに見出すことで、一般的なコーティング剤よりもはるかに耐久性が高く、わずか10度ほどの傾斜でも滑水可能な性能を実現した。

「分子構造レベルの設計を追求して開発することで、他社には真似できない独自性を打ち出すことができています」(近藤さん)

猛暑や環境対応、作業負荷低減への課題は尽きない。観察と探求を重ねる二人の視線の先に、ボディコートの次の常識が広がっている




パッケージにもひと工夫


久保山さんと近藤さんのこだわりは製品性能だけにとどまらない。現場作業者が作業をしやすいようにカッターナイフ不使用で開封できる段ボールを採用したり、施工ミスが起こらないようにラベルのデザインを工夫するなど、「お客様に求められ続けるには?」を問い続ける姿勢が製品の隅々まで息づく。



(日本物流新聞2025年10月10日号掲載)