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バイオプラスチックが奏でる未来
- 投稿日時
- 2025/09/11 16:32
- 更新日時
- 2025/09/11 16:36
進化するプラスチックの環境対応
大阪・関西万博/大阪ヘルスケアパビリオン リボーンチャレンジ
パイプオルガンの柔らかな音色が、大阪・関西万博の会場に響きわたる。素材は木でも金属でもなく、バイオプラスチック。8月、大阪ヘルスケアパビリオン「リボーンチャレンジ」で西日本プラスチック製品工業協会が披露したのは、鍵盤やパイプ、歌口など楽器の主要部分を8社合同で作り上げた伝統と技術の融合による「循環する資源の挑戦」だ。

独自技術でバイオプラスチックを発泡成形したランプシェードや海洋フロート
西日本プラスチック製品工業協会は、射出成形を始めとする高いプラスチック加工技術をもつ西日本の企業が名を連ねる業界団体。リボーンチャレンジではバイオプラスチックで医療や工業、生活分野の製品を並べた。バイオプラスチックはプラスチック製品の環境負荷低減を実現するための有望な手段だが、一般消費者の認知度や理解度はまだまだ高くない。リボーンチャレンジを通して「プラスチック=環境汚染」というイメージの払しょくに挑んだ。
18社による製品展示はすべて植物の非可食部のバイオプラスチックが原料。プラスチックとしての特性も様々に異なり、用途に合わせ耐久性や軽さ、衝撃性や光学的な観点から選び、射出成形や押出成形、3Dプリンターなどの成形技術と掛け合わせた。
注目を集めたのはジャガイモのでんぷん由来のバイオプラスチックでできた岩崎工業(奈良県大和郡山市)「針を使わない注射器」。先端の0.18ミリの穴からワクチンや薬液をガス圧で高速で発射し、皮膚を貫通して体内に入る。針を使わずに皮下注射が可能だ。「バイオポリカーボネートのため耐久性も問題ない。『製品化はいつ?』と来場者から反響が多かった。動物用は3年後を予想しており、痛みがないので動物の負担軽減や、乳幼児のワクチン接種でも有望」と西日本プラスチック製品工業協会の岩﨑能久会長は話す。
特許を取得しているジャガイモ由来のバイオプラスチックの「針を使わない注射器」の先端部
他にも原料にバイオプラスチックとサトウキビなどの農業廃棄物を使った「エコエコパレット」(ワカクサ=奈良県葛城市)は繰り返し使える強度を持ち、廃棄時は原料のリサイクルが可能。エビス(奈良県大和郡山市)は生分解性樹脂のハブラシの持ち手を3Dプリンターで網目状にして種子を内包。捨てる時に、土に植えれば花が咲く。多田プラスチック工業(大阪府藤井寺市)は100%植物由来のバイオプラスチックを工業分野で培った射出成形技術による桜モチーフの食器で未来の食卓を彩る。
高い発泡成形技術を発揮したのはプラステコ(大阪府池田市)による植物由来・生分解性バイオプラスチックのポリ乳酸でできた海洋フロートやランプシェード。独自技術により従来の発泡スチールと同等の密度と浮力など基本性能を持つ。
「便利なプラスチック」から「循環するプラスチック」を象徴する製品を並べ、一週間の出展で一日に約3万人超が訪れたという。
「バイオプラスチックの課題は生産量の少なさに起因する価格の高さ。原材料面では欧米が進んでおり東南アジア、南米やブラジルも多い。ただし成形加工技術は日本がトップランナー」とし、付加価値のある製品作りでバイオプラスチックの需要・供給拡大を図っていく。
西日本プラスチック製品工業協会・岩﨑能久会長
(日本物流新聞2025年9月10日号掲載)