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香川大学 創造工学部 准教授 大宮 祐也 さん

投稿日時
2025/06/27 09:33
更新日時
2025/06/27 09:42

漏れゼロ締結を目指して

ねじや歯車、ばねといった機械要素は、製品が上手く動いたり効率よく機能するために欠かせない。一方で、いまだ解明されていない事象も多く、その世界は奥深い。探求を続ける技術者や研究者にその魅力を語ってもらい、ディープでマニアックな技術のポテンシャルに光を当てる。本稿では前回(5月15日号掲載)から引き続き「ねじ」に着目するが、これまでエンジンやモーターなど動機器で使用されるねじに注目してきたのに対し、今回は香川大学の大宮祐也准教授にプラント配管など封止部分に使用されるねじについて聞いた。

自動車 などで使用されるねじとプラント配管などで使用されるねじ。それらの違いは「一般的なねじ締結はねじが破損しない範囲で軸力を最大化することを志向しているのに対して、プラント配管のねじは絶対に壊れないことを大前提としながらも、その上で接合部から液体やガスが漏れるのをいかに防ぐかが求められる点で大きく異なる」と香川大学の大宮祐也准教授は述べる。

プラント配管を流れる液体やガスは圧力をかけられて流れるため、結果としてプラント配管にはとてつもなく大きな外力が作用する。そのため一つの接合箇所にM30クラス以上のような大径ねじを何十本も使用し、「一本一本のねじは外力で損傷するようなことがなく、かつ、全体で大きな軸力を確保できるように設計している」という。これは漏れの視点からも有効で、外力によって接合面を引き剥がす力が働いても十分な圧縮力が確保できるようになっている。

「基本的にねじ締結では、内外力が概ね0.1であることから外力の多くが接合面を引き剥がす形で作用する。例えば、100の外力が加わると、外力の909割)分の力が接合面の圧縮力から失われる。これは一般的なねじ締結の場合であり、プラント配管の場合では配管接合部の形が原因で内外力比がマイナスになることがある。この場合、外力以上に接合面の圧縮力が失われてしまうため、あらかじめ外力を予測し全体として大きな軸力で締結することが重要になる。そうすることで有事も含め様々な場合に対応できる」

十分に大きな軸力が設計されているからといって、配管接合が簡単かというとそうではない。締結の手順や方法、管理状態によっても実際に締結される軸力が変化するからだ。例えば、メンテナンス時は、外したねじをもう一度使用することが考えられるが、取り外したねじが再度使用できるものなのか、使用できるのであれば適切な整備方法は何かなど判断を要する。

「多くの業界同様に人材の確保は難しくなると予測される。ノウハウといった熟練技術の継承も重要であるが、熟練でない作業者でも適切に締結作業を行えるよう、締結を複合的に考える必要が出てきている」

■機械要素研究を次代に繋ぐ

配管接合では漏れの無いように大きな軸力でサポートされている一方で、ねじや歯車などの機械要素研究は「専門の研究者が片手に収まってしまう」ほどかつかつである。

「機械要素専門の研究者は私たちの世代が一番の若手組。大家の教え子の教え子といった昔ながらの繋がりを持つ研究者もほぼいなくなってしまった」

これまで日本のモノづくりを支えてきた大学での基礎研究は、その研究を立ち上げた先生の研究室で、直属の教え子たちが実験装置やノウハウを受け継ぎながら、次代のテーマにトライして成り立ってきた。

しかし、大学組織の見直しの動きの中で選択と集中が行われ、機械要素分野は厳しい環境にさらされるようになった。

「研究というのは、何らかの問題が発生した時に、その問題を測れる実験装置を作る所からはじまる。この実験装置は、答えの分からない課題を解くため、目的とする実験データをどうとるか、設計した実験装置が本当に目的としたものを測ることができるのか、出てきたデータが本当に狙ったものなのかなどを検証した研究ノウハウが詰まっている唯一の装置。市販されているような汎用装置とは異なる。したがって実験装置がなくなるということは、その分野の研究ができなくなるとほぼイコールで、実に深刻な問題」

大宮准教授は機械要素関連の研究を廃れさせたくないという思いから、ねじだけでなく歯車などにも研究分野の幅を広げる。

「結局、研究とは今までいろんな研究者が関わって成り立ってきたもの。それ自体を私は大切に思っているので途絶えさせたくない。私にできることはあまりないかもしれないけれど、研究成果と共に、次代にこういう先生がいたとか、実はこういう研究が以前されていたといったことも継承していきたい」




モノづくりとAIの研究の違い?


大宮准教授はモノづくり系の研究が「自然を理解することが基本」にあるのに対し、AIやコンピューターサイエンスの分野は「人間が作り出すことができるもので、ルールも作る」と指摘。そのため、AI系の研究が「芸術家や小説家のように独創的に発想しストーリーを作れる天才が中心となる」のに対し、モノづくり系の研究は「自然を相手にしているのでちょっとずつしか変われない。たくさんの人が力を合わせて取り組まなければならない分野」との見解を示す。



(日本物流新聞2025625日号掲載)