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アルファーテック、浮き沈み激しい半導体分野に照準
- 投稿日時
- 2025/01/09 13:56
- 更新日時
- 2025/01/09 14:47
10年で売上2.4倍に
[小径ピンのセンタレス加工]神奈川県横浜市
中小の受託製造企業は景気の波を受けやすく、事業の転換に迫られることが少なくない。創業当初から変わらず小径ピンを製造し続けるアルファーテック(1989年設立、社員43人)は需要分野の開拓に見事に成功した。ITバブル後の低迷後の2003年以降は20期連続で黒字を計上。近年は10%以上の売上高経常利益率を確保する。
同社は当初、ドットプリンター(ピンを押し付けて印字するプリンター。複写式の印刷に対応する)の印字用のピンを製造していた。これが売上高の9割以上を占めたが、ピンを使わずに印字するインクジェットプリンターやレーザープリンターの台頭で需要は激減。そこで2代目の大野和実社長が取り組んだのは異なる需要分野の開拓だった。といってもコア技術は維持する。つまり同社が得意とする直径0・2〜0・3㍉の細いピンの製造は続け、これを必要とする客先を開拓することにした。直径2㍉以上の太いピンを製造する企業は多いが、細い領域は差別化要因になると考えたからだ。その結果、現在では売上高に占める自動車分野の割合が39%、半導体分野33%、医療17%にまで高まった(2023年度)。
まず事業を軌道に乗せたのは半導体分野だった。だがこの分野は浮き沈みが激しい。大野社長は「1990年代のITバブル期は当社の仕事も急拡大したが、その後低迷した」と話す。だが、「ITが広がりAIも普及する今、半導体を使わない品物を見つけるほうが難しい。半導体分野は波があるが、当社の2023年度の同分野の売上高は10年前の2・4倍に増え、これからも増える」と見る。
■目指すは「100年企業」
いま同社が量産するピンはかなり細い。ストレートピンで直径30〜200ミクロン。先細り形状では先端部分が6ミクロン(髪の毛のおよそ10分の1の太さ)というのもある。半導体分野向けは主に検査装置の測定端子のコンタクトプローブ(材質は超硬合金やタングステン)。医療分野向けではカテーテル治療の器具類(ステンレスやニッケルチタン)。設備機械で活躍するのはインフィードタイプセンタレス研削盤(18台)、小型センタレス研削盤(8台)、センタレスのユニットを搭載したNC平面研削盤(6台)。これらを使って年間約200万本の小径ピンをセンタレス加工で製造する。
センタレス加工とはそれぞれ回転する研削砥石とゴムのローラーの間にセットしたワークをローラーで回転させて、回転軸方向に送りながら研削する手法。旋削加工なら必要となる芯出しが不要で長いワークに対応できる(同社では量産で長さ300〜2200㍉を対象とする)。多くはこの手法(スルーフィード研削)を用いるが、一方でワークを送らずに研削砥石の形状を転写させるインフィード研削も手がける。
半導体分野など向けで求められる寸法精度は厳しい。「量産品で太さで±5ミクロン、長さで±10ミクロンが要求され、5年ほど前に注文の多かった直径150ミクロンは、60〜80ミクロンへとどんどん細くなってきた」と言う。
目標は「100年企業」だ。「そのためには世代交代を繰り返せる体制づくりが必要。たとえば作業者のセンスに頼らなくても機能する手順書づくりがある。NC機でボタンを押せば機械は動くが、それまでにワークやそれを支える金属板、砥石、ローラーを正しい位置に設置しなければならない。自主性を発揮する若手は頼もしく、期待してます」
測定室を紹介する大野和実社長。後ろで社員が実体顕微鏡を使って外観検査し欠け・キズ・曲がり・錆などの有無を確かめる。
(日本物流新聞2025年1月10日号掲載)