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扉の先89/A・R・P、中小の食品工場向けに特化
- 投稿日時
- 2024/11/25 10:41
- 更新日時
- 2024/11/25 10:46
メンテの必要性に気づける仕組みに
食品分野を狙うロボットSIerは少なくないが、自動化システムの立ち上げに1年以上要し苦労する例もあると聞く。そんななかこの分野に特化し、成果をあげるのがA・R・P(神奈川県秦野市)だ。自動化システムの設計・開発・アフターサービスのほか専門技術者の派遣、自社開発製品(水分センサー、破袋検査装置など)の販売も行う。社員174人のうちSIer事業に従事するのは30人ほど。主に中小の食品工場向けに年に10〜20の自動化設備を納入する。
「食品業界は安定しているが人手不足にある。人海戦術に頼ってきた業界を変えていこうという機運がある。勝負する価値がある」
同社取締役で技術開発本部の荏原良之本部長はそう見る。ただし勝負するには衛生上のノウハウが必要だ。「この業界は異物の混入を嫌う。だからネジのとめ方1つとってもやり方がある。表面は磨きステンレスでつくる必要があるし、ロボットを使うなら防水性の高さが求められる」と言う。
納めるのは食品を袋詰めしたりコンベヤに流したりして、集積し箱詰めする装置。大手食品メーカーに納入することもあるが、9割は中小零細企業だ。だからシステムの価格が非常に重要になる。
「どんなにすばらしい自動化装置でも1千万、2千万円するとお客様は自動化を諦める。だから当社では1千万円超のロボットシステムと、その他に半額程度に抑えた専用機の2本立てで提案する」
■加速度かけずにやさしく扱う
最近手がけたものにコンビニエンスストア向けおにぎりの箱詰め装置がある。ベルトコンベヤを流れるおにぎり5個をまとめて押し出して、エレベーター方式で下方へ移動させる専用機だ。この装置を設計した理由を聞くと荏原本部長は明快に答える。
「1分間に80個を処理するには多関節ロボットでは間に合わない。2台使ってもマックス70個。パラレルリンクロボットを使うと高くつく。そもそも振り回せばダメージが大きい」
押出方式としたのは、吸着させると印字ラベルの文字が擦れて不鮮明になる恐れがあるからだ。ほとんど加速度をかけずにやさしく扱える。荏原本部長が費用を抑えることに加えてもう1つ大事にするのは、「ユーザーさんに導入して良かったと思ってもらえるシステムにする」こと。納めて終わりでなく、アフターフォローも考えたシステムだ。
「食品工場では壊れるまで使い続けられるが、壊れると生産がストップして大きな問題になる。そうなる前にアナウンスするなどしてメンテナンスの必要性を気づける仕組みを採り入れている」
従来は仕様書を顧客からもらって仕事を進めたが、「近年は機械の機の字もわからない方から依頼を受けることがある。生産技術部隊がないのだろう」。ユーザーは社内に人員を抱えて設計やメンテナンスをするより装置メーカーに丸投げしたほうが合理的と考えるようだ。
課題は多くのSIer同様、人材採用と育成だ。高専、工業高校出身の設計ができるエンジニアはなかなか集められないという。「装置屋は現場力。社員はお客様の工場を訪ねて知見を広めてほしい」と荏原本部長は強調する。エンジニアの育成には数年から十数年かかり、既存の製造ラインがどんなプロセスを経てその形に落ち着いたのか、理想の形はどうあるべきかを想像できる必要がある。それが提案力につながると信じる。
機械設計出身の取締役の荏原良之・技術開発本部本部長。コロナ禍に家族に誘われ山登りが趣味に
(2024年11月25日号掲載)