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ファザーマシン2/Chapter56

投稿日時
2025/09/25 13:10
更新日時
2025/09/25 13:13

職人から「きさげ」の技術を学ぶ

みなさん、こんにちは。工業系YouTubeチャンネル、なんとか重工のとんこつです。

今回は、「きさげ編その1」をお送りします。

マイ「きさげ棒」(スクレーパー)です

私は“きさげ”が好きです。一見すごく地味で、最初は「これ本当に意味あるの?」と思ったくらい。でも、むしろその地味なきさげのとてつもない精密さにこそ感動してしまったんだと思います。

機械加工や研削だけでは出せない精度を仕上げるために用いられ、ミクロン単位の平面度を“手作業”で実現可能。人間離れした精密さを誇る手作業の世界。根強いファンも多く、SNSでもたびたび注目を集めています。

きさげの存在は、職業訓練校での授業と旋盤のベッドを見て知りました。ただ、実際の作業として出会ったのは職業訓練校の“手仕上げ”の授業が初めてでした。

この授業には、外部から吉田さんという職人が講師として来てくださっていて、当時60歳くらい、小柄で穏やかな方でしたが、元は某重工で機械組立仕上げをされていた超ベテランです。

実習が始まると、その穏やかな見た目とは裏腹に、卓越した技能に目を奪われました。手先にはそこそこ自信があった私ですが、2週間の実習では全然近づけませんでした。

まったく同じ道具を使っているのに、鉄の削れ方が全然違う。出てくる切粉の量も明らかに違うし、なにより削られた面が異様なまでに“平面”なんです。

そして、皆に教えながらなのに、一番速くて一番きれい。きさげ模様も一定で、とにかく美しかったのを覚えています。

■キサゲ動画に賛否両論

そんなきさげを、ある日ふと思い出して「久々にやってみるか」と思いつきで動画にしてみたんですが……まあ見事にプチ炎上しました。

その内容というのが、漫画「HUNTER×HUNTER」に登場するネテロ会長の“感謝の正拳突き”を、きさげで再現するという企画。

今思えば「なんでそうなった?」としか言えない内容で、コメント欄にもある通り、すべてが中途半端。今見ると当時の自分を殴りたくなるくらい酷い。

リスペクトしている“本物のきさげ”とは程遠く、意味のない模様を付けて満足していただけでした。

そんなダメ動画を公開して数日後、まさかの救世主が現れます。そう、イワタツールの岩田社長です。業界で顔が広すぎると噂の岩田社長から、突然のお声がけがありました。

「きさげだったらいい会社紹介してあげるよ」

そう言ってご紹介いただいたのが、碌々産業(現:碌々スマートテクノロジー)さん。碌々スマートテクノロジーさんは、微細・精密加工に特化したマシニングセンタなどの工作機械を製造している会社ですが、今でも「本物の職人によるきさげ」を行っている会社です。

最近では、きさげをする会社自体が年々減っている中で、いまだにこの工程にこだわりを持ち、職人技を守り高精度な工作機械を作り続けている。そんな会社に、私のようなユーチューバー風情が修行をつけてもらえることになるなんて……動画の企画とはいえ、本当にありがたい!

動画タイトルは「本物のキサゲ職人に修行つけていただきました!」です。次回もお楽しみに!



(日本物流新聞2025年9月25日号掲載)

工業系YouTuber【なんとか重工】とんこつ

工業系YouTubeチャンネル【なんとか重工】を、相方のケロと2人で運営。旋盤やフライス、マシニングに溶接機、3Dプリンターなどを活用して自分たちが作りたいモノを作るチャンネル。登録者数は13.4万人(2025年9月25日現在)