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荏原製作所、マイナス120℃蓄冷剤で冷凍物流改革
- 投稿日時
- 2025/08/25 09:42
- 更新日時
- 2025/08/25 09:45
「脱ドライアイス輸送」へ新たな選択肢
「冷凍物流業界の困りごとを我々の力で解消していきたい」
そんな思いからポンプメーカー大手の荏原製作所が7月に発売したのが、マイナス120℃の超低温を実現する専用フリーザ「UDF4型」と、それに対応する蓄冷剤。

超低温フリーザ「UDF4型」。134リットルと大容量で、最大60個の蓄冷剤を一括凍結・収納できる(※製品外装は変更となる可能性あり)
これまで食料品や医薬品の低温物流(コールドチェーン)の現場では、輸送時の低温環境維持にドライアイスが使用されてきた。しかし近年、需給バランスが崩れたことで、ドライアイスの確保が難しくなっている。
「コロナ禍以降、ワクチンの低温輸送ニーズが急速に高まったことに加え、冷凍食品やネットスーパーの利用も増えており、冷凍・冷蔵帯での配送ニーズが右肩上がりで増えている。一方で、施設の老朽化や脱炭素推進による再生可能エネルギーへの転換が進む中、国内の製油所やアンモニアプラントが相次いで閉鎖となり、ドライアイスの原料となる高濃度の二酸化炭素が確保しづらい。特に需要が増加する夏場や年末はドライアイスが確保できず現場責任者が頭を抱える事態となっている」(荏原製作所 建築・産業カンパニー 産業事業統括部 建機レンタルビジネスユニット部 建機レンタル業務課の芦村俊光担当課長、以下同)
芦村氏。後方は荏原製作所を代表する創業時に開発されたゐのくち式渦巻ポンプのモニュメント。
蓄冷剤はドライアイスとは異なり昇華しない。輸送後に回収・再冷却すれば、繰り返し使用することが可能だ。ラストワンマイル配送や離島輸送のような長時間・高負荷な配送シーンでも、「冷却が途切れない安心感」を提供できる。リリースからそれほど時間は経っていないが、「食品業界を中心に既に多くの引き合いを得ている」という。
■ランニングコスト7割減
これまで超低温フリーザが市場に無かったわけではないが、冷却性能はマイナス60~80℃ほどのものが一般的。マイナス120℃に対応した製品は「国内初」(同社調べ)。複数の冷媒を使って段階的に冷却する「混合冷媒方式」を採用することで、マイナス120℃という超低温域への安定的な冷却を可能にしている。蓄冷剤も超低温度帯を保持できる独自の素材と構造を採用しており、実証実験では「市販の保冷バッグでマイナス60℃以下の環境を48時間保持できた」という。
「もともとはコロナ禍のワクチン輸送ニーズを捉え開発された製品。現在、我々が提案を進めている食品向けよりもはるかに厳密な温度管理が求められる領域であり、今後はそうした医薬品搬送や、停電時や災害時のBCP対策などにも提案を広げていきたい」
先駆けて実証実験を行っている一部物流会社や食品メーカーからは既に、「ドライアイスと同等の保冷効果を得られている」との声が寄せられており、反応は上々だ。
「導入コストはドライアイスに比べ高いが、ランニングコストは最大で年間7割削減できる試算もある。加えて、これまでより温度帯を大幅に下げられるため、必要になる蓄冷剤の数も少なくなると見ており、さらなるコスト削減や配送効率の向上にも期待ができる」
ドライアイス依存からの脱却は、急拡大するコールドチェーンの成長を安定的かつ持続的なものにする点からも重要になる。荏原製作所のUDF4型がその起点となるか。今後の展開が注目される。
(日本物流新聞2025年8月25日号掲載)