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扉の先103/デンソー、「協働」から「共生」へ デンソーが挑む『同僚ロボット』
- 投稿日時
- 2025/11/13 10:00
- 更新日時
- 2025/11/13 10:04
能動的AIが人間のあいまいさに寄り添う
「協働ロボット」ではなく、『同僚ロボット』を目指す――。デンソーが開発を進める生成AI搭載ロボット「Jullie(ジュリー)」は、これまでの産業用ロボットの枠を超え、人と"心で働く"存在を志向している。人に寄り添い、相手の様子を見ながら対話し、時には教える立場にもなるロボットだ。デンソー クラウドサービス部 ビジネスイノベーション室長の池田光邦氏は「例えば新人アルバイトが入ると、バイトリーダーが横で手本を見せながら教えますよね。それをロボットができるようにしたい」と語る。
彼らが描くのは、人間の作業を肩代わりするロボットではなく、『ともに働く』パートナーの姿だ。

生成AI搭載ロボット「Jullie(ジュリー)」に飴を取ってもらう池田光邦室長
原型となったのは、デンソーウェーブの人協働6軸ロボット「COBOTTA(コボッタ)」。従来の協働ロボットは、人と同じ空間で安全に動くことを目的としていた。しかし池田氏は、そこに根源的な問いを投げかける。「プログラムで決まった動きをするロボットが、人のそばにいる。それは本当に“人と働く”と言えるのか?」
人間が互いに働くとき、そこには言葉や視線、わずかな動きによる意思疎通がある。池田氏らは、生成AIの登場によって、ようやくロボットがその“あいまいな領域”に踏み込める時代が来たと捉える。
「AIが人間のあいまいさを補い、感情や状況に寄り添えるようになれば、ロボットは本当にパートナーになれる。人と共生する社会を実現する技術です」
Jullieの特徴は、6軸ロボットの身体表現を活かした“ノンバーバルコミュニケーション”だ。「今の生成AIは、人間が話しかけないと動きません。受け身なんです。でも6軸ロボットなら、手を少し差し出す、身体を傾けるといった微妙な動きで、人間の発話を引き出せます。仕草で『手伝おうか』『様子を見ようか』と伝えられます」
「人と人のコミュニケーションで、言葉が占める割合はせいぜい1割。残りの9割は動きや表情です。人と共に歩むロボットをつくるなら、その非言語の部分を無視するわけにはいきません」。だからこそデジタル上のアバターなどではなく身体性を持った6軸ロボットだったのだ。
■しぐさで話しかけやすく
来店者に合ったコーヒーをブレンドし提供するイベントや、ドライブエージェントロボット「クルマのJullie」などで世界観を伝える広報的活動に従事するが、現場への実装も模索される。「例えば組付け作業で、カメラがAIによって“見守り”を行い、間違いがあれば『ここ違うよ』と声と動きで知らせる。見守られることで人が安心するという認知科学的な効果も実証しています」。このように、ロボットが“指示を受けて動く”段階から、“自ら考えて行動する”段階へと進化しつつある。
こうした技術や思想は直接ではないが、他のAI搭載自動化機器に応用が見込まれる。「例えば、自分から仕事を探すAGV(無人搬送車)や、人が荷物を持てずに困っていると助けにくる移動型作業ロボット。そんな世界を構想しています。人が命令しなくても、ロボットが自ら寄り添う――それが私たちの描く“能動的AI”です」
Jullieの販売予定は現時点ではない。だが、その背後で培われる知見は、今後のAGVやヒューマノイドの開発に確実に息づく。同社はCOBOTTAに“こころ”を詰め込んだという。ヒト型の外観を持つヒューマノイドが人そっくりな仕草を持つアンドロイドへと飛躍するにも、その“こころ”が画竜点睛になりそうだ。
(日本物流新聞2025年11月10日号掲載)