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扉の先102/明電舎、ニッポンには「ニッポンのAGV」を

投稿日時
2025/10/27 09:47
更新日時
2025/10/27 09:51

技術とサポートでモノづくりを下支え

電力インフラや鉄道システムなど、社会を支える重電メーカー・明電舎。かつて「モートルの明電」と称された同社の祖業は、モーター開発・製造。120年以上にわたって培われた技術は、無人搬送車(AGV)にも活用されている。

超低床リフト式AGV「3MS-S8」

同社AGVの心臓部を担うのが、長きにわたって磨き上げてきたモーター制御技術。一般的なAGVがステアリングモーターを使い方向転換するのに対し、同社AGVにはその概念がない。各車輪に独立したモーターを配し、それぞれの回転数と回転方向を緻密に調整し、全方向への移動を可能にしている。これにより、直角に曲がる際の大きな旋回半径が不要となり、狭い通路や入り組んだレイアウトでもスムーズな走行を実現する。

「当社はAGVという言葉がまだ一般的では無かった40年以上前から『無人搬送車』の開発に取り組んでおり、大手自動車メーカーをはじめとした製造業各社に納入してきた実績があります。また電動フォークリフトのモーターや制御システムを開発してきたノウハウなど、これまで蓄積された知見を融合させた、ユニークかつ多様な現場に対応できる豊富な製品ラインナップを揃えています」(同社電動力ソリューション営業・技術本部桂靖弘専任部長)

昨年11月には超低床リフト式AGV「3MS-S8」」を上市。わずか132㍉の車高で業界最低床を実現。既存の台車やパレットの下に潜り込み、リフトアップして搬送する仕組みにより、自動化導入の大きな障壁となっていた設備変更のコストと手間を大幅に削減する。

「最大800㌔の搬送が可能で、±10㍉の高精度な位置決めで、台車の下に正確に潜り込むことで、確実なリフトアップを可能にしています。また搬送時も各モーターの制御により、安定した搬送を実現します」(桂氏)

誘導方式は磁気誘導、レーザー誘導方式など、現場の環境に合わせた方式を選択できるほか、複数台の運行を効率的に管理する統括制御盤や、待機中の自動充電機能など、24時間稼働が求められる現場でも安心して運用できる機能を備えている。

■導入後も手厚くサポート

性能面では他社を圧倒する明電舎のAGV。だが、業界を俯瞰するとメーカーは中国を筆頭に世界中で林立しているのが現状であり、もはや搬送ロボット市場はレッドオーシャン化しつつあるようにも見える。

だが、同社電動力ソリューション営業・技術本部の堀越諭搬送営業部長は、「これまで自動車関連をはじめとした業種からの引き合いが中心でしたが、この1、2年でこれまであまり関わりの無かった業種からの相談が急増しています」と、昨今の引き合いの変化を挙げ、さらなる伸びしろに期待している。なかでも顕著な事例が食品関連だという。「費用対効果という点から自動化が見送られてきた業界ですが、最近は地方の新規工場で人が全く集まらず、工場建設計画が成り立たないという切実な状況が、待ったなしの自動化へと舵を切らせています」という。

堀越氏は中国メーカーの台頭についても意に介さず、「中国製は売り切り。壊れたらまた買ってください、というスタンスですが、当社は30年以上お使いいただいている顧客の要求にも誠実に対応させていただいており、現在入手不可能な部品の場合は代替開発も行っています」と自信を見せる。

モノづくりにおける市場環境が急速に変化する中、同社は日本の製造業が求める「安全安心」、「止まらない現場」、「リスクへの確実な対応」といった不変的な価値を提供し続けることで、独自のポジションを確立している。

明電舎2人.jpg

【写真左】桂靖弘氏、【写真右】堀越諭氏