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扉の先101/FingerVision、視触覚センサーもつ「指」
- 投稿日時
- 2025/09/29 10:36
- 更新日時
- 2025/09/29 10:38
「難作業自動化のカギは手先の情報」
惣菜や野菜など柔らかくて掴むと偏荷重が起こる食品の取り扱いを自動化するのは難しい。それを可能にしようとするのがFingerVision(東京都江東区)だ。同社が開発したフィンガーは視触覚センサーを搭載し、モノを掴む際に「滑り」と「力」分布の情報を得て適切に扱うことを可能にする。

黒いドットの奥にカメラを内蔵するフィンガー
どうしてそんなことができるのか。透明のシリコン製のフィンガー内部に黒いドットが無数にある。対象物を掴むとそのドットが圧力で変形・移動し、その動きをカメラで捉えるのだと濃野友紀社長は言う。
「これが視触覚の仕組み。モノを掴むのに光学式(カメラを使った)アプローチの研究は様々ある。でも理論と実用の間には果てしないギャップがある」
同社はこの視触覚センサーを搭載したフィンガーをロボットのアプリケーションとしてシステム化した世界唯一の企業という。今年1月に米ラスベガスで開かれた世界最大規模の電子機器見本市CESで視触覚機能を実装したロボットが、ロボット部門のInnovation Awardsを受けた。
これまでに開発したフィンガーは6種。対象物にマッチするような曲面、平面、細い形状や、カメラ画質を向上してセンシング性能を高めたタイプなどがある。個別にカスタマイズしたものを含めると十数種類にのぼり、3年前からは指先だけでなくグリッパーを含むハンドも用意する。「納めた数? 50~100個かな。もう数えていられない」そうだ。
■先手打って自動化せよ
同社はなぜ視触覚にこだわるのか。「触覚を得られないと物体操作上できないことが多くなり、高度なことはなおさらできない。高度といっても人が直感的に簡単にこなす作業なのだけれど」と濃野社長は言う。でもロボットハンドは昔からある。差別化できる自信があったのだろうか。
「たくさんあっても、いいのがない。ないなら自分たちでつくろうと始めた。日本には優れたロボットがある。でもいくら腕がよくても手先がないと機能しない」
いま人手不足を背景にロボットに注目が集まっている。だが現在の技術ですべての作業が自動化できるわけではない。
「とりわけ人手に依存してきた生産プロセスに関して、人手不足はネガティブに捉えられがち。でも私はポジティブに捉えている。先手を打って自動化できれば安定した供給力が得られ、売上を増やす手段になる。設備投資して5年後、10年後を生き残るプラスの循環ができる」
濃野社長は自動化ニーズの高まりを日増しに感じている。とりわけこの半年から1年はロボットとAIを融合させ、できなかった作業を自動化しようとする機運にあるという。AIは米・中が中心となって先行しているように言われるが、「当社はもともとソフトとAIを使ってきたので手先の機能をさらに向上させられる。人の動きのデータを蓄積し、それを模倣してロボットを意図したとおりに動かせる。この最後のピースになるのは手先の視触覚情報。ここで差を生み出せる」と力強い。
本社にある実験施設を紹介する濃野友紀社長(左)と最高レベニュー責任者・角谷雄一氏
(日本物流新聞2025年9月25日号掲載)