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けんかっ早いけど人が好き Vol.43

投稿日時
2023/02/22 09:29
更新日時
2023/02/22 09:36

冬の寒い夜に

子どものころは、よく手足にしもやけを作っていた。小学生のころは毛糸の手袋をしていてもいつの間にか手の指がぱんぱんに腫れ、ぐーに握ると指の皮が割けるという痛々しい(というか痛い)状況だったことを覚えている。

昔はとにかく寒かった。外気温もさることながら、家の中も寒いのだ。その後、両親は家を建てたが、断熱材という概念がまだ浸透していない、かつ、光熱費をあまりかけない時代ゆえ、朝、目覚めると室温は2度。吐く息が白いという日々だった。それに比べると今はなんと幸せなことか。断熱材の入った家でエアコンの設定温度を16度まで上げ24時間つけっぱなし。ぼーぼーと吹き出される温風でドライアイとの闘いになっているものの、しもやけとは無縁の生活だ。電気代どんとこい! そんなものは必要経費だ。そのぶん仕事の効率を上げて稼げばいいのである。

しかし、姉は違った。姉は寒さへの耐性が強いのである。ついでに洋服やカフェには節操なく使うものの、光熱費に対してはとんでもなくケチだ。私が設定温度を16度にしていると言うと「それじゃ、汗だくでのぼせるわ」と言ってのけるが姉の指にはしもやけがあり、夜は足先が冷たくて眠れないとぼやく。人は時間とお金の使い方が、それぞれ大きく異なるのである。

そんな彼女がいいものを見つけたと連絡してきた。磁気のベルトを足の土踏まずあたりにつけると、足がぽかぽかしてぐっすり眠れるという。おかげで電気代もかけずに快眠らしい。ところで姉の家では、先日、二代目ポメラニアンを迎えた。ポメ子(仮名)は夜、リビングにいると吠えまくるくせに、ケージに入れて姉の寝室に連れてくるとおとなしく眠るらしい。ある冷え込んだ夜のことだ。姉は例によって磁気ベルトを足にまき、気持ちよく朝を迎えた。ポメ子も目覚め、ケージの中から姉を見つめている。「おはよう、ポメ子」と声をかけ抱き上げたところ、ポメ子の身体は氷のように冷たかったらしい。「そうなのよ、冷たいのよ~」と、姉は笑いながら話すのだが、それって低体温症で死ぬ寸前ではないのか? 光熱費削減は大事だけれど、死と隣り合わせの節電はいかがなものか。部屋、あったかくしようよ、姉! 

(2023年2月25日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)

神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員