1. トップページ
  2. 連載
  3. ジダイノベーター Vol.32/TOHMA

連載

ジダイノベーター Vol.32/TOHMA

投稿日時
2025/05/15 09:00
更新日時
2025/05/15 09:00

中小企業にフィットした省力化支援

添付ファイル付きのメールが送付された後、しばらく経ってパスワードが別のメールで送られてくる。当紙もこのシステムなので恐縮だが、受け取る側としては「面倒くさいなー」というのが正直なところではないか。大量の注文書が送られてくる加工業者なら大きな負担だ。これを簡単なシステムで解決したのが22年創業のスタートアップTOHMA。10人以下の零細企業を含む中小企業にジャストフィットする業務効率化システムを足掛かりに、最終的には中小企業の生産性向上のボトルネックであるファミリービジネスの調整を通じて効率化を目指す。

繰り返し作業自動化のイメージ

商社の経験生かす

戸松峻希代表取締役は機械・工具商社「山善」を経て、今事業に必要なITのノウハウを獲得するためITスタートアップに身を置きながら228月にTOHMを設立。代理店事業で原価低減、支援事業で効率アップに貢献する二刀流で成長戦略を練る。「原価高騰、人手不足、デジタル化の遅れ、という中小企業の課題を解決するために、一度、有形物を扱う商社をやめて、ITのノウハウを身に着け、別の角度から貢献したい」(同代表取締役・以下同)と起業の道に進んだ。

「中小企業の加工業者は『モノづくりに集中したい』が、人数が少ないゆえに経営者や、その奥さんが一人何役もやってコア事業に集中できていない」。様々なベンダーから業務効率化のシステムは提供されているが、多くは製造業に特化していない。

注文書が暗号化された添付ファイルで到着。後でパスワードが送られてくるパターン。多品種少量のO社は、一日50通ほど、そうした注文書を受信していた。これをワンクリックでZIPファイルとパスワードを自動的に処理し、指定されたフォルダへ正確に格納する仕組みを提供。月400分の作業時間を削減し、抜け漏れも完全になくなった。

同社の特徴の一つはAIなど派手なシステムにこだわらず、零細企業にとって必要最低限のものに留めることだ。N社は大手住宅設備機器から仕事をもらっていたが、部品のバリエーションが多く、見積もりは5万通りにもなっていた。これを選択式にしてワンクリックで価格を計算するシステムを組んだ。AIなど過大なシステムは用いずエクセルのマクロ機能を活用している。

AIを使用したシステムでの事例もあるが、臨機応変に違うアプローチもする。ヒアリングの結果、エクセルのマクロ機能で対応できるなら、最低限のコストで中小企業の自動化が実現できる」とし「小さな加工企業が困っていることは、莫大な費用をかけてAIでやるような複雑なことでない場合も多い」と話す。

これらのシステムは、AIを活用しながら戸松氏自身が制作しており「この技術を身に着けるため、一度、専門商社をやめた」のだという。

■合理化は経営者家族が肝

中小企業の生産性や効率が上がらず、経営者も従業員も苦しんでいる根本原因は「ファミリービジネス」に起因すると戸松氏。「中小企業は大抵家族経営で、会長の社長の関係や、そこから派生する派閥、戻ってきた社長のご子息と古くからいる社員の関係など、家族関係を原因とする社員間の問題がネックになる。業務を効率化して、たくさんの受注を受けたとしても、そこがギクシャクしているといつまでもしんどいまま。ファミリービジネスの経営を外部から客観的な目線も持ちつつ伴走支援して調整していければ、本来のモノづくりの力を発揮できる」として、次のステップと捉える。

支援事業と代理店事業を通じて間口を広げつつ、ファミリービジネスという本丸に切り込む準備を今、整えている。

TOHMA1.jpg

戸松峻希代表取締役

(日本物流新聞2025515日号掲載)