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ジダイノベーター Vol.30/スパイスキューブ
- 投稿日時
- 2025/03/11 15:24
- 更新日時
- 2025/03/11 15:27
低コストで始める都市型植物工場
栽培した後の「出口戦略」も支援
近年注目される植物工場。災害や天候に左右されず安定して生産できる点や、衛生的な成育環境の栽培により害虫リスクや品質劣化の原因となる細菌が少なく、洗浄が不要となり飲食店では人件費削減につながるなどのメリットがある。しかし大規模施設になりがちでスペースや高額な初期費用が必要となり、大企業しか参入できない領域だった。

小規模植物栽培システム「AGROT」のレストランでの導入風景
「中小企業が主役になり都市でも農業参入できる素地を作りたい」という思いから誕生したのがスパイスキューブ(大阪市浪速区・須貝翼代表取締役)だ。「小さな野菜工場をたくさん作る」――
そう考えた理由は農業人口の減少に対する危機感。「今の日本は高齢化している農家さんしか残っていない。企業参入しなければ現状を変えられません」(須貝代表)
同社が開発した小規模植物栽培システム「AGROT(アグロット)」は一畳スペースから設置でき、省スペース・初期費用は200万円~と従来システムにくらべ低コストで始められる。工場やオフィスの空きスペースを活用し、導入が進んでいるという。
パイプにあけた穴に野菜を植え、タンクの中に設けた小型ポンプと吸水ホースで養液を40㍑毎㍍の流量で吸い上げながら、パイプの中で養分を溶かした養液を循環させる。そのためほとんど水を必要しない農業になるという。「植物の光合成を促進する発光ダイオードのライトで、通常120日ほどかかるレタスが、40日程で収穫できます。しっかり味がのり食味もよいです」
■「店産店消」という新トレンド
スパイスキューブの強みは、栽培した野菜の「出口戦略」を顧客と一緒に考えること。「地方なら住み込みでリスクテイクし、野菜の栽培から販路まで、現地で完結するまで支援します」と計画生産や販売戦略までサポートする。「農業は、栽培した野菜の販売ルートの確保までが大変で、重要なんです」。
出口戦略として着目するのは「飲食店向け」の野菜。「料理人は、味や希少性に面白みを感じてもらえたら、きちんとした値で野菜を購入してくれます」と言う。
とある鉄道会社が経営するレストランがアグロットを導入する事例も。訪れるインバウンド客も珍しい栽培装置に関心を寄せ、好評だという。このような農業のトレンドを須貝代表は「店産店消」と表現。「流れは米とシンガポールで既に見られますが、日本ではまだです」都市型農業とすることで消費地に近づけた農業が可能になった。
また、販路と同じぐらいに重要視するのが「栽培技術の継承」だという。「機械や装置、畑だけ渡されても誰も作れません。当社はそこにビジネスチャンスを見出し、現地で支援し、頼ってもらう。それが社会貢献できる農業になるのでは」と都会や建物の隙間に小さな緑を広げていく。
須貝翼代表取締役(左)と社員の樋口裕香氏
(日本物流新聞2025年3月10日号掲載)