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ジダイノベーター Vol.28/マッスルブループリンツ
- 投稿日時
- 2025/01/27 09:23
- 更新日時
- 2025/01/27 09:27
筋肉の「可視化」で運動効率を最大化
何事においても、日々の努力や積み重ねが実感できるようになるには、ある程度の時間がかかる。特にスポーツのトレーニングにおいては、見た目の変化やタイムの数値的な向上など、目に見えた成果が表れるまで「自分が日々どれだけ成長しているか」は分かりにくい。
これをアプリケーションとデバイスの活用で筋肉の動きや質を可視化、測定できるプロダクトを研究・開発しているのが神奈川大学発のベンチャー、マッスルブループリンツだ。同社が開発中の「筋肉Phone」は手のひらサイズ以下の筋電計を測定したい部位に取り付けるだけで、スマートフォンを介して筋肉の状態を「見える化」する。

「筋肉Phone」アプリと装着例
同社代表で神奈川大学人間科学部の衣笠竜太教授が語る。
「かねてより、トレーニング直後には熱くなっているとか、張っているとか主観的なものでなく、数値化して効率的なトレーニングに繋げたいというニーズがありました。これらを実際に測定する筋電計は、非常に高価で可搬性にも乏しく、研究室やジムなどごく一部の方しか活用できませんでした。そこで当社は低コストで簡単に取り外しできるワイヤレスのデバイスを用いたスマートフォン制御表面筋電図(EMG)システムを設計・開発しました」
開発にあたり、測定用のデバイスには市販の安価な部品を採用。被験者を用いて検証した結果、高価な測定機器と同等のデータを得られた。
「筋肉Phoneのアプリでは、筋肉の質を点数化し筋トレの効果を定量的に判定、個別に最適な筋トレメニューを提案します。ですので、アスリートなど特定の方だけではなく、今後は一般の方も筋肉のデータ分析に基づいた、より効率的で質の高いトレーニングが出来るようになります」
■健康年齢伸ばす筋肉の「質」
同社による「筋肉可視化ソリューション」はスポーツの現場での活用に留まらず、リハビリテーションの現場でも大きな期待が寄せられている。
リハビリ初期において患者が苦労するのが、力を入れて筋肉を動かす感覚を取り戻すこと。それが筋肉の動きをビジュアル化することにより、どんな感覚で体を動かすと力が入りやすくなるのかが分かりやすくなるという。
「脳梗塞とか脳卒中で麻痺が残っている患者さんで、力が入っている実感が全くない方でも、力は出せるんです。患者さんが出した微妙な力を、アプリケーションを通じて視聴覚から補ってあげることで、リハビリ効率も高まります」(衣笠教授)
先の見えにくいリハビリにおいて、進捗度や機能回復への道のりがはっきりすることは、モチベーションの維持や向上にも繋がるだろう。
モノづくりの現場においても、同社の技術の活用が可能だ。
「職人の巧みなスキルを次の世代の人に継承していくにあたり、これまでは言語化して伝えてきた部分があると思いますが、筋肉の動きをデータで解析し『こういう動作をしてここに力を入れれば出来るようになる』といったカタチで、よりはっきりと伝えられるようになると思います」
また、今後『超高齢化社会』を迎えるにあたり、いつまで健康でいられるか、という健康年齢が重視されるようになる。
「これまで筋肉は『量』に主眼が置かれてきましたが、実は死亡リスクと筋肉の量は関係なくて、筋肉の質のほうが密接に死亡リスクと関わっています。必要な時に力強さやスピードを出せる質の高い筋肉をいかに維持し続けるか、が重要です。そうした筋肉の質を当社の筋肉Phoneは見極められます」
今後は4月開幕の大阪万博ヘルスケアパビリオンへの出展や、誰もが気軽に着用できるデバイスの開発などを進めていくという。
神奈川大学・衣笠竜太教授
(日本物流新聞1月25日号掲載)