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ジダイノベーター Vol.19/高効率発電で静かな小型風車

投稿日時
2024/01/25 09:24
更新日時
2024/01/25 09:32

WINDシミュレーション、迎角・翼径制御で暴風でも安全に

世界における再生可能エネルギーの約50%を占める風力発電。脱炭素社会実現に向け太陽発電と並び、今後の伸長が目される。しかし平均風速や台風による暴風などで発電コストが高くなる日本では、風力発電は数%に留まる。

2030年には国内の風力発電市場は2160億円に達すると予想されるが、国内普及を考えると暴風対策と発電コストといったクリアすべき課題がある。そういった現状にWINDシミュレーション(中田秀輝代表取締役)は新しい「風」を吹き込もうとする。同社が開発中の小型垂直軸風車は微風から暴風まで対応し、優れた静音性と高い発電効率が特長だ。

【画像左】迎角と翼径を制御できる小型垂直軸風車
【画像右】流体解析による迎角制御の理論検証(下図が迎角制御あり)。風車の回転を上から見た図で、3つの円内にそれぞれ翼が位置する。赤色部分が気流の「剥離」が発生している箇所で、発電効率低下の要因となる。

これらを可能にしたのは、「迎角と翼径」を制御する新技術。翼の角度をモーターで調整可能とし、微風から暴風まで風速や回転角度に応じて迎角を変化させ、発電量を調整する。暴風時は風をいなし、風車の破損を防ぐ。さらに翼径制御で風車の直径を縮め、風圧を減らしながら安全に発電する。

同社の風車は、飛行機が空を飛ぶ力と同じ「揚力」の発生により翼を回す。翼を最適な角度に調整し効率的に揚力を得る仕組みだ。迎角制御を行うことで、通常風速時でも発電量は従来技術に比べ30%以上アップするという。高い発電効率が風車の小型化につながった。

ジダイノベーター中田代表.jpg

中田 秀輝 代表取締役

また、迎角はある角度を超えると気流が「剥離」し渦が発生し、揚力が急激に下がる。騒音の原因にもなる剥離を迎角制御により抑制でき、45デシベル以下と静音化もかなえる。

「小型で効率がよく、騒音が出ない。いわばロボット風車です」中田代表はそう表す。蓄電池を備えたスマート街路灯や防犯カメラ、太陽光と併用した家庭用風車などスマートシティへの応用展開に期待が持てる。

■一家に一台、小型風車のある街並みを

迎角・翼径制御技術を支えるのは気流のシミュレーションのノウハウだ。中田代表はパナソニックに19年まで約35年在籍し、DVDBlu-ray、燃料電池の事業化にプロジェクトリーダーとして携わってきた。これまで特許を海外含め300以上出願、100件以上を登録するなど多数の先端製品を手掛けてきた。

退職後、風力発電に着手したのは「住宅の屋根に風車を乗せたい」という発想からだったと話す。

DVDBlu-rayはモーターで円盤が回転しますよね。実は風車も同じ。風が回って、埃や塵、熱が器機に集まってしまうのを防ぐため流体解析に取り組んできました」と、培った知見を活かし、理論構築・計算を積み重ね最適な小型風車に行き着いた。

「小型風車を太陽光発電と併設した家庭用ハイブリッド電源として普及を目指したい。パワコンを共用化すれば大幅にコストカットでき、住宅への風力発電普及を加速できる」とし、「屋根に、小さくて静かな風車がちょこんとついている。そんな未来を作れたら」と中田代表は未来の街並みを描く。

2024125日号掲載)