2022年版「中小企業白書」を読む〈2〉
約700ページ及ぶ同白書のポイントを、図表を引きながらかいつまんで読み込んだ。
自己変革力 ―ブランド構築の有効性など検証
白書はまた、「自己変革力」という視点から企業の成長を促す経営力と組織について分析した。
そうしたなか今回着目した一つが「無形資産投資」だった。これは人的資本、研究開発、IT・ソフトウェアなどへの投資を指すが、近年は有形資産投資と比べて生産性をより向上させるとの専門家らの分析結果も多い。
その無形資産投資に関し、さらに絞りこんで「ブランド構築(投資)」と「人的資本への投資」について考察した。
ブランド構築については「オリジナルの付加価値を有し、適正価格をつけられる価格決定力を持つことが考えられる」と仮説的に記し、各種調査から検証した。
このグラフは企業のブランドが取引価格の引上げ・維持に寄与しているかどうか聞いたものだが、ブランド構築に取り組んでいる企業の約56%が「大いに寄与している」ないし「ある程度寄与している」と回答したのに対し、取り組んでいない企業は同割合が17%程度に過ぎなかった。
他方、ブランドの構築・維持のための活動では、自社ブランドの発信だけでなく、ブランドコンセプトの明確化や従業員への浸透などを行うことも必要ということが別の問いで浮き彫りになった。
無形投資資産として「人的資本への投資」についても、白書は詳細に分析した。
まず経営者の経営課題として「人材」が圧倒的に重視されていることを調査結果から引き、人材の能力開発に積極的な企業・職場ほど従業員の働く意欲が高い、また計画的なOJT研修・OFF-JT研修を行っている企業ほど売上高増加率が高い傾向―といった現実を分析した。このくだりでは、従業員だけではなく、経営者が学習時間を意図的に確保している企業のほうが売上高増加率の水準が高い傾向というユニークな調査結果も引用している。白書は、研修を充実させることで従業員が工夫をし、従業員が新規事業を発案するなどして業績を急回復させた事例を掲載した。
他方、変革力という観点からは、外部環境への対応も中小企業に問われる。白書は「越境EC」、「グリーン・脱炭素」また諸外国と比べいかにも低調な日本の「起業=スタートアップ」について状況を整理し課題などを記している。
共通基盤としての「取引適正化」と「デジタル化」
白書は、中小企業の動向を記した冒頭部で、原油高等に対する価格転嫁が、中小企業において遅れている(昨年12月調査では「まったく転嫁できていない」がほぼ7割)状況に触れたが、自己変革力をテーマにしたくだりでも、価格転嫁の遅れに触れ「販売先との交渉の機会を設けることが重要」などと記した。交渉の機会がないため価格転嫁を図れていないケースは少なくなく、かねてからの課題である「取引適正化」に絡めて是正をうながした。
「エネルギー価格・原材料価格の高騰への対応だけでなく、中小企業における賃上げといった分配の原資を確保する上でも、取引適正化は重要」と記している。
また、「パートナーシップ構築宣言」(企業が発注者の立場で自社の取引方針を宣言する取り組み。サプライチェーン全体の共存経営、付加価値向上、新たな連携を目指す)の策定企業が1万社近くまで増えるなか、白書は宣言(策定)を行った企業の取り組み状況を分析。(宣言・策定を行っても、調達担当など社内への)周知が遅れているケースもあるなどと指摘した。
他方、将来にわたる共通基盤としてはデジタル化のテーマも重みを増している。白書はデジタル化の取組み段階を1〜4(4が最高レベル)に分けて状況を整理。デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる最高レベルの企業が約10%あった一方、紙や口頭による業務が中心のレベル1段階の事業者も8.2%と依然存在する現実を厳しく見た(上表参照)。
白書は「取組み段階が進展するにつれて、営業力・販売力の維持強化をはじめとする個々の効果を実感する事業者の割合は高くなる」とし、デジタル化の進展に取組み、最終的にはビジネスモデルの変革(DX)や、新たなビジネスモデルの確立につなげることが重要と結んだ。
今回の中小企業白書は、これまで見てきたように事業再構築・自己変革の重要性を強調した内容になった。そうしたなか、白書は最終まとめにあたり、「再構築伴走支援」という言葉で、【併走支援】の有効性・必要性を強調している。
企業が自己変革を進めるなかでは様々な障壁に直面する(白書では5つの障壁を明記)ことになるが、この壁を乗り越える上では、第3者である支援者・支援機関が、経営者らとの信頼関係を築き、対話を重視した併走支援を行うことが有効とする意見だ。支援者の併走支援によって経営力を向上させた象徴例を掲載している。
2022年版「中小企業白書」を読む〈了〉
(日本物流新聞 2022年5月25日号掲載)