建設需要と設備投資動向要と設備投資動向

コロナ禍を経て日常が回復するとともに、大規模な再開発事業の波が首都圏から地方都市に広がりつつある。また、高度成長期に建設された構造物の老朽化に伴う保守・更新事業など官民を問わない潜在的なニーズも顕在化している。生産財ビジネスと関係性の深い建設需要と設備投資動向を探ってみた。

建築コスト増が大きく影響

【画像1】首都圏では大型の再開発案件が進んでいる
【画像2】プロロジスパーク八千代1

首都圏では大型の再開発案件が進んでいる


(一財)建設経済研究所が4月に発表した2022年度の建設投資は66兆6900億円と予測。民間住宅建設投資、非住宅建設投資ともに、前年度を上回ると見通した。これは経済活動の正常化が進んだことによる国内景気の持ち直しが大きな要因と見ている。

一方、建設投資全体は、昨今の物価上昇の影響を受け、名目値ベースでは前年度と比べて同水準になるが、実質値ベースでは前年度を下回る水準になると見ている。

2023年度の建設投資は前年度比2.6%増の68兆4300億円と予測している。
政府建設投資は前年度比2.3%増の23兆9400億円。国の直轄・補助事業については前年度当初予算並みとし、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」等も考慮して推計している。また、2021年度と2022年度補正予算に係るものの一部が、2023年度に出来高として実現すると想定した分も含まれている。

民間住宅投資額は前年度比1.1%増の16兆3200億円。建設コスト増加により着工戸数は微減の見通しだが、このコスト上昇に起因し全体の投資額は微増となる見込みだ。戸建て(持ち家)の着工戸数は、2022年度は前年比9.4%減の25.4万戸。すべての月で前年比を下回る厳しい情勢が続いた。

「景気の不透明感や物価の上昇などで住宅取得に対するマインドが冷え込んでいる。これらはすぐに回復するものでもなく、今後も慎重な動きが続くと想定されるので、2023年度も減少傾向が続くと見られる」(建設経済研究所)

一方で2022年度の貸家着工戸数は前年度比3.2%の34.2万戸と比較的好調だった。「2023年度も賃貸住宅大手の受注速報から読み解くと継続した需要が見込まれるが、建設コストの高止まりや金利先高感の影響で伸び悩みが予測されるので、2023年度は前年度とほぼ横ばいの34.1万戸程度になると見ている」(同)。

2023年度の分譲住宅着工戸数は、前年度比0・9%減の25万戸と予測。マンションは大都市圏での底堅い需要を見込む一方で、戸建の需要は一服すると想定し、分譲全体としては前年度と同水準の見通しであるが、やや減少すると見ている。

■底堅いリフォーム需要

2023年度の民間非住宅建設投資は、前年度比0.9%増の19兆1900億円と予測。
引き続き設備投資の持ち直しがみられることから、名目値・実質値ベースともに前年度と同水準になると見ている。
分野ごとの需要だが、事務所は建設資材価格の高止まりの影響が懸念されるものの、投資家の旺盛な投資姿勢が支えとなり、当面は首都圏の大型再開発案件を中心に堅調に推移すると見ている。店舗は個人消費の拡大が見込まれており、卸売・小売業等の安定した投資が続くものとみられるが、コスト増により営業利益率の低下が想定され、投資マインドへの影響が懸念されている。

工場は製造業の投資意欲は継続して改善傾向にあり、堅調に推移すると想定されるが、コスト増の影響により投資を先送りする傾向も出始めている。倉庫・流通施設は着工実績・受注額ともに引き続き増加傾向にある。物流企業をはじめ製造業や小売業等、幅広い業種からの需要があり、首都圏のみならず地方都市圏においてもマルチテナント型物流施設の高水準の供給が続くものとみられる。

宿泊施設は、アフターコロナを見据えた訪日外国人増加等によるインバウンド需要を見込み、国内外のホテルブランドによる高級ホテルの建設計画等が控えており、当面は堅調に推移するとみられる。
民間土木投資は、発電用投資の受注額に回復がみられるとともに鉄道工事も堅調に推移しているものの、足元では電線路工事等に伸び悩みの傾向がみられるという。  
 
2023年度の建築補修(改装・改修)投資は、前年度比10.4増の10兆7500億円と予測している。
政府建築補修(改装・改修)投資は、前年度比9.3%増の1兆7700億円。民間建築補修(改装・改修)投資は、前年度比10.6%増の8兆9800億円と予測している。

特に民間建築補修(改装・改修)は、新しい生活様式に合わせた空間利用のニーズが継続すると予想され、住宅分野におけるリフォーム需要も底堅い動きがあるものと考え、増加傾向に転じると予測している。
いずれも⾧引くウクライナ情勢や国内外の金利政策の変化等、世界的な経済・社会情勢に大きく左右される可能性もあるが、全体の投資自体は堅調に推移するものと見る。他方、建設業界における喫緊の課題でもある高齢化、労働力不足、生産性向上などを解消できるソリューションへの需要は今後ますます高まっていくだろう。

物流マルチテナント建設は引き続き好調(プロロジスパーク八千代1)




(日本物流新聞 2023年6月10日号掲載)

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