モノづくり白書を読む

〜多岐にわたる事業環境の変化にフォーカス〜
「2022年版ものづくり白書」が5月31日に閣議決定した。同白書は毎年、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省共同で作成。我が国製造業の状況を捉え、そこで起きている変化や課題を分析し、次代に向けた取組みの方向を示す内容としている。

今回の同白書は、製造業を取り巻く事業環境の変化にフォーカスした。即ち「原油価格の高騰」、「部素材不足」、「サイバーセキュリティ対策」、「サプライチェーン強靭化」、「ビジネスと人権」、「カーボンニュートラル」、「DX」、「レジリエンス強化」など様々に着目しているが、これらは社会問題として、あるいは製造業の課題として対策・対応が迫られている点で共通する。白書は各々現状を分析し、動向をまとめながら政府の対応や企業の取組み事例を多く掲載した。

約250ページの「ものづくり白書」は、モノづくり基盤技術に関する現状と課題をまとめた「第1部」と、モノづくり基盤技術の振興に関して講じた施策を掲載した「第2部」で構成されるが、ここでは1部のポイントを読み込んでみた。

【業況】回復基調も「稼ぐ力」に懸念

業況は2020年下半期から大企業製造業を中心に回復基調に向かったが、部品不足などの影響から22年に入って大企業製造業、中小製造業ともマイナスに転じている旨を記した。生産も20年5月に底打ち回復となったが、21年後半からは世界的な半導体不足等の影響を受けるようになった。白書は「新型コロナウイルス感染症の拡大に加え、原材料価格の高騰や、半導体などの部素材不足等の影響が大きくなっている」と記した。

しかし生産面で表出した停滞感に対し、設備投資は20年前半に大きく落ち込んだあと回復に向かい「足下でも回復傾向」と明確に捉えた。シンクタンクの調査などを元に「今後3年間の国内外の設備投資も、引き続き増加見込み」と述べている。もっとも、社会情勢の変化の激しさから不透明感も根強いようだ。特に「原材料価格の高騰」「半導体不足」「部素材不足」の影響が大きく増していることに白書は目を向けている。

そうしたなか白書は、改めて「企業の稼ぐ力」を重視した。財務情報を用いて日本企業の営業利益率と企業行動の関係を分析すると、営業利益率の高い企業では積極的に有形・無形の設備投資や研究開発投資を行っている傾向にあり、営業利益率が低い企業は、設備投資は少ないが借入金増加率が高い傾向にあるなどと記した。

他方、製造業企業を日本・米国・EUで国際比較すると、日本は営業利益率で米国・EUより低く、研究開発費比率でも最下位にあった(2017年~20年度の平均値で比較)。さらに無形固定資産(※)の比率は日本が極端に低く、米国の10分の1、EUの4分の1水準に過ぎない。国際競争力の源泉として特にデジタル化の進む昨今は年を追って「無形資産」の重要性が増しており、白書は行間に強い懸念をにじませている。
※無形固定資産とは各種権利など実体を持たない資産。ソフトウェア、特許権、営業権、のれんなど。

事業環境の変化(1)

CN、中小もScope3含めた取組みに

今年のものづくり白書は、ほぼ全編を通じ「事業環境の変化」というテーマ視点を堅持して綴られている。ここでいう「事業環境の変化」とはコロナ感染症の直接間接の影響から部素材不足、原油価格の高騰、ロシアウクライナ問題など多岐にわたるが、白書は特に、多くの企業が取組み強化の動きにある「カーボンニュートラル(以下CN)」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に関する記述にページを割いた。あわせて、こうした取組みに必要な人材育成の必要性を強調した。

CNについては、複数の事例を考察しながら「サプライヤーも含めたサプライチェーン全体の脱炭素化やCO2排出量・削減量を可視化する取組みが国内でも拡大」と記し、続けて「中小企業においてもScope3(※)を含めた排出量削減の取組みが見られはじめている」と述べている。

また国の取組みとしては「2050年CNに伴うグリーン成長戦略」を重視し、次のように記した。

CNの実現には、民間企業等の従来のビジネスモデルや戦略を抜本的に見直す必要がある。そのハードルを乗り越えるためには、国として可能な限り具体的な見通しを示し、高い目標を掲げ、挑戦しやすい環境を整えることが必要である。グリーン成長戦略では、今後期待される14分野と各分野で目指すべき高い目標を示した上で、予算、税、規制改革・標準化、民間の資金誘導など様々な政策を総動員して民間企業等の取組みを後押ししていくこととしている」(以上、原文ママ)。
※Scope3とは事業活動に関連する温室ガスの排出量のうち、サプライヤーら他社の温室効果ガスの排出量を指す。

CNに絡んでは、素材産業の在り方について踏み込んだ記述も行った。

実際に昨年12月から有識者会議を設け議論を進めているのだが、雇用や地域経済を支えてきた鉄鋼・化学などの基礎素材産業が、CNの実現に貢献しつつ国際競争力を維持・強化する為の方向性を見出すことが課題となっている。

2050年CN実現に向けて、こうした産業の「生産プロセス改革」や「化石燃料から水素・アンモニア等への転換が必要」であり、そのための技術開発や設備投資資金の確保が不可欠との認識を白書は改めて確認した。「素材メーカーだけでなく関連業界など様々な分野での変革を、全体最適な形で進めるべく、素材産業の将来像の検討・共有をはかっていく」と述べている。

事業環境の変化(2)

DX、バリューチェーン全体の競争力向上に

新しい社会課題の増大(CN対応、人権問題対応等)に対しては、組織や企業の壁を越えバリューチェーン全体で取り組む必要がある。この際、バリューチェーン上の関係者の取組みを見える化し、円滑に情報共有するため、大量のデータ収集・分析・共有などを行うDXの取組みが必要…

―という切り口で今回の白書は「DXによる競争力向上」についていろいろと綴っている。

多種多様な事例を考察しながら、先進企業の効率的なデータ活用を「データ流通」という言葉に置き換え、データ流通の重要性を強調している。また、古くから欧米などで戦略的に実践されてきたことではあるが、高精度なデータのスムーズな流通に向け「標準化することが重要」と記した。

白書は、DXの取組み事例を多く掲載しつつも、総括的な評価に関する記述は今回一部にとどめている。DXの成果よりもむしろ、DX活用の成果を導ける「人材育成の必要性」を複眼的視点で述べている。

残念ながら我が国のデジタル推進人材は「量」「質」ともに不足しているのが現状であり、スイスの国際経営開発研究所が公表した「世界デジタル競争力ランキング2021」では日本のデジタル競争力は64カ国中28位であり、さらに「デジタル・技術スキル」にいたっては62位とほぼ最下位の結果だった。「高度デジタル人材の養成」は待った無しの課題と同時に深刻な問題になっている。白書は人材育成に向けた国の、学の、また個別企業の取組み例を紹介するが、これらが響くかどうか。

製造業のIT投資は現状ほぼ横ばいのようだが、そんななかにも白書は「経営者の意識の変化がうかがえる」と記した。上のグラフにあらわれているように、IT投資で解決したい経営課題は、取組み中の課題としては「働き方改革」が1位、次に「業務プロセスの効率化とスピードアップ」と続いたが、今後の重点課題には「ビジネスモデルの変革」が挙がった。DXの時代といわれるなか、その課題を解決するインフラは急激に整いつつあり、デジタル人材を据えて成果につなげていきたい。

(日本物流新聞 2022年6月25日号掲載)

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