まもる・つながる・検証で機能する! BCP

自然災害の激甚化に加え、企業活動に変革を与えたコロナ禍、そして地政学リスクの高まり――。社会の不確実性の増加と複雑化により危機管理能力が求められる場面は増えている。
BCP(事業継続計画)は備える段階を越え、実践の局面に臨んでいる企業も多い。
事業活動継続には、リスクを認識し、人材や設備などの資産を守り、事業や情報が分断されずつながる仕組みの構築が重要である。 

【画像1】タイトルイメージ
【画像2】「リスク対策.com」中澤 幸介 編集長

多岐に渡るリスクに対するソリューションや製品、サービスの幅も広がりつつある。本特集ではより有効なBCP策定のため、ダクト内の火災防止から耐震シェルター、あるいはBCPの検証の重要性など、広く紹介する。

世相が変わればリスクの種類や大きさも変わる。アップデートを重ね、より機能するBCPは何かを考え直す。

想定リスク「感染症」低下し、「自然災害」が増加

帝国データバンクが5月に実施した調査(調査対象:全国2万7930社、有効回答企業数1万1420社)では、BCPを策定済みの企業の割合は18.4%、前年から0.7ポイント増加し2018年からは6年連続で増加となった。一方で「現在、策定中」は7.5%(前年比0.1ポイント減)、「策定を検討している」が22.7%(同1.9ポイント減)とそれぞれ減少。

BCPを「策定意向あり」とする企業は48.6%で、1.3ポイント減少した。新型コロナが拡大しはじめた20年をピークに3年連続で低下しており「コロナ禍で感染症リスクが表面化したことで一時的に企業の取り組み意識が高まったが、時間の経過とともに相対的に優先順位が低下した」(帝国データバンク)。

また、「策定意向あり」の企業が想定リスクとして多く挙げたのは地震や風水害、噴火などの「自然災害」で71.8%と最も高く、次いで「設備の故障」(41.6%)となり、新型コロナ感染症やインフルエンザなどの「感染症」は40.4%で前回から13.1ポイントと大幅低下。今年に入って震度5弱以上の地震が各地で起きていることから「取引先の被災」(31.4%)、「物流(サプライチェーン)の混乱」(34.7%)」も上昇している。

リスクへの備えとしては、中小企業が「調達先・仕入れ先の分散」や「代替生産柵・仕入れ先・業務委託先・販売場所の確保」というサプライチェーンに関連した備えが「大企業」に比べて高い。

BCPを策定しない理由は「スキル・ノウハウの不足」「策定する人材が確保できない」などが多くみられた。「現行のBCP対策マニュアルは既に策定されており、運用されているが地震や台風などの自然災害のみを想定している。感染症やその他リスクに対応できていないので見直す必要があると感じている」(機械・器具卸売)あるいは「ノウハウがなく何からはじめれば良いのかもわからない」(機械製造)など、危機意識が曖昧となっている様子がうかがえる。

また、「自社だけ設定しても効果が期待できない」といった企業の声も。事業継続のためにはサプライチェーンの川上から川下までを一体として、BCP策定を通し強靭なサプライチェーン構築を目指す必要もある。

アフターコロナの今、検証とBCP見直しを

「BCPが機能している企業には共通点があります。策定したBCPを定期的に見直している点です」

「実効性を高めるためにBCPの定期的な見直しを」と話す「リスク対策.com」中澤 幸介 編集長

「リスク対策.com」編集長の中澤幸介氏は、アフターコロナの今こそ検証の時だと呼びかけた。「BCPを策定したが一度も見直していない企業は、策定後定期的に訓練・見直しを実施している企業に比べ災害本部の設置が遅れたり、『想定外の事態』の範囲が広い」として、「BCPは体力づくりメニューみたいなもの。必要な食事はなにか、あるいは太ってしまった時どうリカバリーするか。人間の体が成長するように、企業も策定して1年、2年、3年目と運用していけば組織も変わる」と定期的な見直しの必要性を語る。

とある半導体製造装置メーカーは積極的にBCPを見直し、改善を進めている。2009年のH1N1(新型インフルエンザ)の教訓から、全社員の3か月分の使用量に相当する60万ものマスクを用意。約10年後にはその備蓄が新型コロナウィルスで活かされることになった。

中澤編集長がアフターコロナの今すべきこととして挙げるのは「アフターアクションレビュー(AAR)」。グループで作業を振り返り、長所、短所、改善点を特定するアプローチで、欧米各国が災害やパンデミック対応として取り入れている。
(1)何が起こると予想して、どのような戦略を描いていたのか
(2)実際に何が起こったのか
(3)何がうまくいったのか、なぜうまくいったのか
(4)何をどのように改善すればいいのか、
などを主要な構成要素とし議論を進める。

AARの特徴は「否定しないことと、あくまでオープンな場とすること、そしてチーム全員による参加」だ。「コロナ後の検証で良かった点や悪かった点を話し合うと、部署によって回答が変わった。例えば人事部は『早急に在宅勤務に切り替えられた』としているが、IT担当の部署は『在宅勤務にするためにセキュリティトラブルのリスク対応に追われた』と答えるなど視点により見方が異なった。様々な角度から検証し記録を残すことで、次の世代の危機管理担当者へのプレゼントになる」。
〜〜2023年6月9日に開かれた防犯防災総合展セミナーから〜〜

(日本物流新聞 2023年8月10日号掲載)

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