検証 MECT 2021 <2>

10月20日から4日間にわたって開かれたFA技術専門展「メカトロテックジャパン2021」。
工作機械を中心とした大型展示会が久しぶりに開催されるとあって、コロナ禍ながら6万8929人が来場した。数多くの見どころから、自動化、工程集約、DX、超精密加工など、とくに関心の高いテーマに絞って提案動向を追った。

【画像2左】シチズンマシナリー:ウェアラブル端末によるDXを推進
【画像2中】三菱電機:AIで工具状態を可視化
【画像2右】赤松電機製作所:「目詰まりセンサーユニット XPLS-D」
【画像3】西部電機:ワイヤ放電加工機「SuperMM80B」
【画像4左上】オーエスジー:「Aブランド」製品として、スレッドミルのラインナップを拡充
【画像4左下】日進工具:ケース裏面のQRコードから情報を引き出せる「NS Connect」
【画像4右】ユニオンツール:SKD11(HRC58)を2枚刃の超硬・CBN工具で加工後、4枚刃で仕上げ加工する提案も展開
【画像5】松浦機械製作所のブース

DX、現場に合わせた提案へ

進むデータ利活用、使いやすさ鍵

「3号機、15分後に検品」「切削油切れです」「刃物交換をしてください」など、スマートウォッチを着けたオペレーターに加工機が機内の状態を知らせてくれる近未来をシチズンマシナリーが紹介した。

機械の状態や生産状況を可視化する機械データ収集ツール「アルカートライブ2」やシチズン時計が提供するIoTプラットフォーム「Riiiver」を使って実現するもの。これまでにもスマホやタブレット端末を使えば同様の情報は得られたが、切りくず清掃中や別の機械操作中、打ち合わせ中などでもスマートウォッチなら確認しやすく次の作業にスムーズに移れる。

参考出品のスマートウォッチは最終形ではない。中島圭一社長は「油の雰囲気のなかでも使ってもらえるようにはしたいが、形や大きさについてはユーザーニーズを探っていきたい」とし、使い勝手のよさについて聞くと「工作機械業界がわかる時計メーカーは他にありませんから」と自信を見せる。

シチズン時計製のスマートウォッチは数年前から販売しており、デジタルとアナログの両表示に対応したタイプは来春発売するという。

「製造現場のDXを実現する」として、DMG森精機が提案したのはクラウド型プラットフォーム「TULIP(チューリップ)」。プログラミングの専門知識が不要なうえ、IT専門部署やベンダーに委託せずに、現場主導で運用できるというもの。各種センサや計測機器と連携することで、手書きや手入力によるミスを防ぎ、複数の機器から取得データの一括管理を可能にした。

手作業の進捗状況はタブレット端末やスマートフォンに表示。さらに打刻や計測値なども自動取得されるので、ミスと不正を防ぎながら、チェック工数も削減できる。MES(製造実行システム)に代表される社内管理システムとの接続のほか、AIエンジンなど外部の最新サービスとの連携、産業機械からの稼働データも取得できることから、「工場の『すべて』のデータを統合できる」とした。

三菱電機は工作機械から加工条件とIoTデータを同期収集し、同一加工条件のトレンド変化から工具の磨耗傾向を捉えて工具運用を最適化するアプリケーションパッケージを出展。「従来は加工回数による交換が主流だったため、本来はまだ使用できるはずの工具を交換しているケースも少なくなかった。最適な工具寿命をAIで診断することで、正確な磨耗状態を把握できる。これによって工具交換回数を削減でき、工具にかかるコストを大幅に削減可能」(同社)。

さらに正常加工時の特徴を把握し、正常加工のしきい値を自動算出。工具欠損の検知や金型変形による加工異常を検知し、不良品を減らす。

工作機械のデジタルデータ活用が進むなか、周辺機器の稼働状況を可視化する動きも出ている。赤松電機製作所が着目したのは、自社が強みとするミストコレクター。オプションとして開発した「目詰まりセンサーユニット XPLS-D」は吸込圧を測定し、目詰まりの状況を確認する。

目視でチェックしていた確認作業の手間と時間を省くと同時に、フィルター管理の標準化を図った。適切なタイミングでフィルターを交換することで、現場の環境悪化を防ぎ、稼働率を高めるメリットもある。

超精密加工「機内完結型」へ

機上計測、補正ツール提案相次ぐ

芝浦機械は超精密MC「UVM-450D(H)」を出展。自社製の空気静圧軸受主軸に直線3軸をリニアモーター駆動とし高速かつ高精度な加工を実現する。構造体には温度制御された媒体液を構造体に充満・循環させる構造体恒温化システムを搭載。熱変位を最小限に抑える。

同時出展した特許出願中のオペレータ総合支援ソフトウエア「UVM-TSA」は、加工時に切れ刃の形状や磨耗量といった工具状態やワーク形状を計測、補正値を算出して最適な加工を行う。これにより3次元モデル修正やデータ再作成といった無駄な工数を大幅に削減するとともに、適切な工具管理を実現する。

アマダマシナリーはデジタルプロファイル研削盤「DPG-150」を初披露した。業界初のデジタルプロジェクターと最大400倍の高倍率ルーペを搭載。ワークに光を当てて影をスクリーン上に投影する光学式プロファイル研削盤と比べ、ワークや砥石の形状をはっきり視認できるようにした。

エッジ自動検出機能を備え、計測したい箇所にタッチパネル上で触れることで加工形状の寸法・誤差を瞬時に計測できる。自動計測機能を持ち、さらに補正加工までを自動で行うことも可能。会場ではDPG-150で加工した加工精度1.5ミクロンの端子部品金型などのワークを披露し、誰でも簡単に微細加工ができる優位性をアピールした。

碌々産業は機上計測・追い込み加工システム「COSMOS」を披露。加工後にワークを自動で洗浄する装置を新たに開発、洗浄したワークを機上計測し、自社開発の形状精度追い込み支援ソフト「Planet」で追い込み補正をかけるなど、加工機内で「加工→洗浄→測定→追い込み補正」のサイクルを一貫して行う。

「わずか数ミクロンのズレで何十時間と削ったワークがおしゃかになってしまうのが微細加工の領域。COSMOSは高精度の機上測定と追い込み補正を組み合わせてワークロスを無くす」(同社・海藤満社長)

金型が大型・高精度化しているのに対応し、西部電機はシリーズ最大の加工エリアをもつワイヤ放電加工機「SuperMM80B」を出品。X800・Y600ミリの加工エリアで他社が保証しないピッチ加工精度±1ミクロンを保証する。

同社は「加工領域のもう少し狭い高精度ワイヤはあったが、多数個取りで少しでもストロークが大きく、なおかつ高精度を求める声が多い」と製品化の理由を話す。ユーザーによって変わる設置環境でこの精度が出るように検証したうえで納入している。

発売から半年、当初目標(年間10台販売)をクリアする月1台ずつの販売を維持しているそうだ。

高硬度をターゲットに

HRC60~70対応の新工具続々

ヘリカル穴あけとねじ切りを同時に加工する。従来品との時間比較動画で、来場者の足を止めさせたのはオーエスジーだ。新製品として発表した高硬度鋼用底刃付きスレッドミル「AT-2」は、下穴を不要にしたことで、切りくずトラブルのない安定加工を可能にした。

荒刃で負荷を分散させ、左刃によるダウンカットで長寿命化を図る。HRC65まで対応。高硬度鋼用コーティングの効果も相まって、超硬ハンドタップが65穴で大きく刃欠けするところ、AT-2なら208穴でも良好なねじ品位を保てるという。NCプログラム作成ソフト「ThreadPro」から、Web版をリリースし、使い勝手を高めた。

「本当に硬いところに向く」と自信をもって日進工具が紹介したのは小径3枚刃ロングネックボールエンドミル「MRBSH330」(刃半径0.1~1mm)。新たなコーティングと刃先形状によりHRC60~70の金型加工などにもってこいで、高切込み・高送りができる。

中心部の刃と刃の間が鋭角のため磨耗しにくく、不等分割形状のため加工中のびびりを抑制する。このエンドミルについて「もう1つ触れておきたい」と後藤弘治社長が強調するのは「NS Connect」。ケース裏面のQRコードを読み込むと、工具の特長や規格・切削条件、加工動画などが見られ、「手元にカタログがなくてもいつでもどこでも使用直前に情報を確認できる」。

多くのメーカーがターゲットとするようにユニオンツールもHRC60~70向けの新コーティング採用のロングネックラジアスエンドミル「HGLRS」を出品。先行販売するボールエンドミルに加えるかたちでMECTに合わせて発売した。

仕上げ加工用に4枚刃の「CBN-LRF4000」を参考出品。燃料電池セパレーター金型の加工などに適し、すでにラインナップする2枚刃より長持ちする。近々発売するという。

京セラは、今秋投入したばかりの微細加工向けソリッドボールエンドミル「2KMB」を見せた。合金工具鋼、ステンレス系、ハイス系など、HRC70までの高硬度鋼に対応する。

φ0.1mm(R0.05)~φ4.0mm(R2.0)までラインナップ。特殊な2層構造を可能にした独自のコーティングに加えて、新たに開発した独自形状S字の切れ刃による優れた切れ味も売り。大きな芯厚、点切削(強バックテーパ)、すくい角と逃げ角を徐変させる独自の刃先形状などもポイントに挙げている。

コラボ/補完と独自開発

工程改革は進む

今回のMECTでは、異なる企業や技術のコラボ/補完関係をベースとした提案が増えた。最も象徴したのが測定・計測分野だった。

40時間の工数を約17時間にー。ハイエンドマシニングセンタで知られる安田工業は、今展で機上計測の効果をアピールした。安田拓人社長は「機械そのものの性能よりも、ユーザー目線に立ってメリットを伝えることを重視した」。大幅な工数削減は、機上計測システム(展示は大昭和精機製)により、「再段取り」することなくマシンが素早く高精度な追い込み加工を行うから可能になる。機上計測と高精度機械のコラボが生む成果だ。

松浦機械製作所はレーザー式の非接触工具測定システムで9割以上の市場シェアを持つブルーム―ノボテストとタイアップし、工具の状態を常に確認しながら長時間自動加工を行うプロセスを何度かプレゼンした(上写真)。工具の状態を都度測定で把握し、加工精度の維持と安心感を導く。

他方、測定機器メーカー同士で特殊な測定機を供給し合う関係が垣間見られた。円筒形状や長軸物に特化した海外製非接触測定機を複数の国内大手が展示していたのが象徴的。また独・カールツァイス社はX線でスキャンし、測定と検査を可能にする製品をメイン展示していたが、聞くと「従来の測定とは異なる領域の技術を取り入れて、市場を広げねば」と返ってきた。

ミツトヨは温度変化や過酷環境に対応する三次元測定機などで、測定のインライン化・ニアライン化を提案。独自技術だが、実現には機械メーカーなどとの繰り返しの検証が必須であり、ここにもある種のコラボ関係がうかがえた。

コラボとは逆に、独自で測定システムを設ける機械メーカーもあった。表面粗さナノクラスという超精密機械を手掛ける芝浦機械は撮像式のワーク/工具形状計測システムで超精密加工の長時間維持を実現。

こうしたことも合わせ見ると、コラボもあれば、異なる技術の取り込みもあり、また異業種からの測定提案もありと、技術やプレーヤーが入り乱れているようにも映る。注目の「機上計測」について、ブルーム(日本法人)・山田亨社長の指摘も興味深かった。同氏は、工作機械と機上計測システムが「車」と「カーナビ」の関係に似ているとし、次のように話した。

「カーナビ搭載はもう標準化しているが、当初は搭載されたカーナビを使うしかなかった。しかし今はカーナビを選別する時代になっている。同じことが機上計測システムにもあてはまってくるだろう」。新たな競争時代がくる?

検証 MECT 2021 <了>

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