変化の中のBCP

―備えあれば憂いなし。地震や風水害の多い日本では昔から馴染みのある言葉だが、近年のコロナウイルス感染症の感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻による地政学リスクの顕在化など、これまで想定していた「憂い」とは種類も規模感も異なる。これまでの「備え」ではカバーしきれない世界的な変化が様々な場面で発生している今、BCPの策定や見直しに注目が集まっている。

愛知県の明治用水の漏水による工業用水の給水停止。災害由来ではないインフラの寸断は、耐震・停電時の電力確保を重視してきたBCP(事業継続計画)では対応しきれない点を衝いた。

また、資材調達などといったグローバル・サプライチェーンの乱れについては、多くの企業では備えよりすでに実践が求められる状況だ。供給力の低下を防ぐ方策については、物質的な備えで凌ぐだけはなく、場合によっては新たなシステムの導入やネットワークの構築といった新たな方策について講じる必要もあるだろう。

そこで今回は、これらの動向や、BCPに寄与する注目の製品やサービス、そして今求められるBCPの在り方について紹介する。

近年の状況の変化の特徴として、予兆をつかみづらい事象で、グローバル化・経済の高速化により突発的・急激に影響を与え、それに加え収束点が不透明だということがある。しかし視座を変えれば世界規模の問題による顕著な変化は、意識の共有がしやすいとも言える。BCPの重要性を共有しやすい現状だからこそ、BCP策定や新しい視点での見直しの時に当たっている。

想定リスクに変化も方策手薄

帝国データバンクが5月に実施した調査(調査対象:全国2万5141社、有効回答数1万1605社)では、BCPを策定済みの企業の割合は17.7%と、前年より0.1ポイント増加しており、策定の意向がある企業は49.9%(前年比0.3ポイント増)となっている。

さらに、BCPを「策定意向あり」としている企業に対して、事業継続が困難になるリスク想定を訊いたところ、地震や風水害、噴火などの「自然災害」が71.0%で、2017年から6年連続で最も高くなった(複数回答、以下同)。また新型コロナウイルスなど「感染症」(53.5%、前年比6.9ポイント減)は低下したが、「情報セキュリティ上のリスク」(39.6%、同6.7ポイント増)、「物流の混乱」(30.4%、同5.0 ポイント増)、「戦争やテロ」(19.0%、同6.0ポイント増)が大幅に上昇。また、それらの項目が上昇したのと同様に、リスクへの備えも「情報システムのバックアップ」「調達先・仕入れ先の分散」「予備在庫の確保」などサプライチェーン安定に関する取組みが前年から上昇した。

しかしながら、帝国データバンクは「『従業員の安否確認手段の整備』『緊急時の指揮・命令系統の構築』といった『従業員や設備などの経営資源を守る』取り組みは、多くの企業で実施・検討されていた。その一方、『代替生産先・仕入先・業務委託先・販売場所の確保』『物流手段の複数化』『代替要員の事前育成、確保』などの『経営資源が不足する場合は代替する』取り組みは低い割合にとどまっている」と、経営資源不足の想定リスクに対する方策が手薄な現状をうかがわせた。

さらに中小企業からは「事業のほぼ7割が下請けであり、自社のみで事業計画を作成することが難しい」ため、BCPの必要性をそもそも感じられない、または策定しても実施できないという声もある。その一方で今回の調査では、BCP策定により「取引先から一層の信頼を得て、安定運営ができている」といった、企業の見られ方についてメリットがあったとする意見も出ている。安定的な供給や取引のための対応力を問うひとつの試金石として、BCP策定が今後企業間の取引において影響を及ぼすかもしれない。

また、BCP策定にあたって自社のリソースの配分や構築について考えることで、経営の改善点の発見や、業務の効率化によってカーボンニュートラルに繋がる取り組みを見つける可能性もある。想定外が続く世情において、厳しい制限や節約も時には避けられないかもしれないが、外部要因が解消されるまで企業の体力を頼りに耐え凌ぐだけでなく、平常時から新たな手立てを探り、実行することで競合他社と差をつけることもできるかもしれない。BCPが企業の明暗を分かつ選択になる可能性を秘めている。

(日本物流新聞 2022年8月10日号掲載)

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