【特別対談】工作機械の未来を考える

中村 匠吾 氏(中村留精密工業社長)と清水 伸二 氏(日本工業大学工業技術博物館館長・上智大学名誉教授)が「工作機械の未来」について語り合います。

【画像1】タイトルイメージ
【画像2】中村匠吾氏・清水伸二氏
【画像3】ユーザー自身で既存機の機能をアップデートできる中村留精密工業のNT Updateは、工作機械機能の持続的な成長を可能にする
【画像4】中村留精密工業の新製品、ATC型複合加工機「JX-200」。難削材や高精度ワークを安定的かつ精度良く加工することに重点を置いた、世界一の複合加工機メーカーを目指す同社の自信作だ
【画像5】日本工業大学工業技術博物館所蔵、池貝鉄工所製の手回し装置で駆動する旋盤(1889年)。工業技術博物館ではこうした工作機械が数多く「裸」の状態で動態展示される



中村匠吾(なかむら・しょうご)
1991 年石川県生まれ。2015年慶応義塾大学大学院卒業後、中村留精密工業に入社。17 年取締役、18 年専務取締役、22 年4月から現職。「まるさん」の愛称のもと風通しの良い社風形成に努め、社員一丸となって「世界一の複合加工機メーカー」を目指す。




清水伸二(しみず・しんじ)
1948 年埼玉県生まれ。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978 年に上智大学博士課程に進み、1994 年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014 年に定年退職し、名誉教授となる。2019 年に日本工業大学工業技術博物館館長に就任し、工作機械業界の認知度向上に尽力中。




モノづくりを支える屋台骨、工作機械。日本はその精度と品質で他国をリードしてきた一方、近年では中国・韓国などアジア諸国の工作機械メーカーも台頭が続く。変化の荒波を越えるために必要なものは何か。4月1日付で社長に就任した北陸を代表する工作機械メーカー中村留精密工業の中村匠吾氏と、日本工業大学工業技術博物館の館長を務め、工作機械の歴史や機構に造詣の深い清水伸二氏に「工作機械の未来」を語り合ってもらった。

Chapter1
購入後も進化する工作機械

ユーザー自身で既存機の機能をアップデートできる中村留精密工業のNT Updateは、工作機械機能の持続的な成長を可能にする

本紙 お二人は以前からお付き合いがあると伺っています。最初の出会いは。

清水 私は中村健一会長とは,日本工作機械工業会会長時代からお世話になっており、中村匠吾社長のこともお若いころから存じ上げていました。会長が中村社長の経営者としての将来を期待し、私が教鞭を取っていた上智大学のオープンキャンパスに一緒に来られたのが最初でしたね。今思えば、中村社長と工作機械との接点を作るための会長の戦略だったかもしれませんが(笑)

中村 私もその時のことはよく覚えています。その日は清水館長の研究室にある加工機を見せていただきましたが、実は記憶にある限り、工作機械の実物を見たのはあれが最初でした。私はその後上智大学に進学し、学部こそ畑違いでしたが、実機を見せて頂いたのをきっかけに少しずつ工作機械について調べ始めました。機械の本格的な勉強は入社してからですが、現在は大学の研究室や社内からのサポートも頂きながら論文を執筆中です。

清水 やはり吸収力が素晴らしいですね。久々にお会いしましたがとても立派な社長になられており、今日はお考えを聞けるのをとても楽しみにしています。

本紙 お二人の最近のトピックスについて教えてください。

中村 4月1日に社長に就任しましたが、その日に「NT Update」というサービスを開始しました。我々の工作機械ユーザーを対象に、無償で基礎的な機能といくつかの新機能をお客様自身でアップデートできるというものです。我々は年に3~7の新機能を開発しています。従来、新機能を搭載するには手続きを行ったうえでサービス員の到着を待っていただく必要があり、搭載を見送られるお客様もありました。しかし我々の機械は耐用年数が長く、40年以上使われるマシンもあるほど。そうした機械にも進化の余地を残すためにサービスを始めました。

清水 このようにユーザーの機械機能の成長を持続可能にすることは大変素晴らしいですね。スマートフォンではないですが、こうした定常的なアップデートはユーザーにも喜ばれるでしょう。しかし新機能の考案にはニーズを拾い上げる力が必要。モノづくり業界では機械をネットワークに接続してデータを提供することへの抵抗感も根強く、苦労されているのではないかと推察します。ユーザーとの信頼関係を構築し、協力体制をどう築くかが消費財と違って難しい部分です。

中村 ネットワークとの接続に関して私は割と現実的でして、最初からすべての工作機械をネットワークに接続するのは難しいと感じていました。そこでNTアップデートでは、お客様がPCにファイルをダウンロードし、それを工作機械に移管する方法を推奨しています。実際に、機械とネットワークを繋げていないお客様が大半です。とはいえネットワークとの接続を諦めたわけではなく、今は「工作機械をネットワークに接続したほうが良い」とお客様に感じてもらうための道程と捉えています。

中村留精密工業の新製品、ATC型複合加工機「JX-200」。難削材や高精度ワークを安定的かつ精度良く加工することに重点を置いた、世界一の複合加工機メーカーを目指す同社の自信作だ。

本紙 清水館長の近況はいかがでしょう。

清水 博物館に勤めて4年目になりますが、近ごろ実感するのは博物館活動を単体で行う難しさです。例えば,一般における工作機械の認知度の低さを嘆いていても状況は変わりません。産学連携で、工作機械産業を一般の方々に理解いただき、良い人材を工作機械産業に集めるための積極的な活動に取り組めたらと考えております。

博物館は過去の資料の収集・保管、調査・研究、教育が三大使命。しかし最新技術にも目を向け、記録に残すべき新しい技術を整理するのも役割だと考えるようになりました。工作機械産業の皆様には、そうした取り組みにもご協力いただければと思っております。

最近は企業の人材育成にも活用いただいています。博物館では工作機械を「裸」の姿で見られる。特に昔の機械は動きをすべてメカ的に行っていますから、今の機械がどれほど自動化されたかも一目瞭然です。どんな苦労を経て現在の機械に至ったのか、その過程を想像するだけでも価値あることだと思います。

日本工業大学工業技術博物館所蔵、池貝鉄工所製の手回し装置で駆動する旋盤(1889年)。工業技術博物館ではこうした工作機械が数多く「裸」の状態で動態展示される。

中村 我々も廃盤になった古い機械をお客様の現場でよく見かけますが、確かに構造が把握しやすく、教育やトレーニングに役立つ。そこでしか学べないことも多くありますよね。

清水 最近では、館内に工作機械専門の図書資料室も作りました。最近の読み物には載っていない基礎知識も昔の教科書は補完しています。そうした基礎の勉強にも活用いただきたいですね。昔の人は今ほど既成概念に囚われていませんから、思いもよらない面白い機械を作っています。実際にモノを見ながら「どういう狙いでこの構造にしたのか」と疑問を持っていただくと、技術者にとって素晴らしい研修になると思います。社員旅行代わりにぜひお越しください。

このほど工業技術博物館の館内に作られた工作機械専門の図書資料室。昔の教科書類も収蔵しており、近年の刊行物には載っていない基礎知識を補完できる。

Chapter2
現場の負担を機械で削る

本紙 中村社長は4月1日に社長に就任されましたが、取組方針などは。

中村 就任前からの話になりますが、「なぜ私達は機械を作るのか」を社員の皆さんと一緒に考える場を設けました。300件超の意見が出ましたが、そうした意見を集約して作った言葉があります。「私たちは材料だけではなく、現場の負担を削って、ものづくりに携わる人の生活を豊かにしよう」という言葉です。

我々の機械は材料を削りますが、それに加えて現場の負担を削りたいと。ものづくりは本来楽しいものですが、現実的には現場負担が大きく楽しさも失われてしまう。負担を削り、現場の余裕を創出したいと考えています。そのために我々は、複合加工機と複合加工機能を持つCNC旋盤を普及させなければならない。例えばNT Updateも、どうすれば現場の負担を削れるか、負担を削る手段としての複合加工機が現場に広がるかを念頭に開発しています。

清水 「素材だけではなく現場の負担も削る」これはとても良いキーワードですね。中村社長にはこうしたことを積み重ねながら、保守的な日本の工作機械業界を変えてくれることを期待しています。また、仰ったやり方はボトムアップ的ですが、日本で革新的な工作機械が生まれないのはトップダウンが弱いからという見方もあります。カイゼンレベルのことは現場もすぐに提言・実践できますが、革新的な意見を創出するには、社員がアイデアを出しやすい環境をトップダウンで作る必要がある。中村社長には、トップダウンとボトムアップのバランスの取れた経営を実践いただきたいですね。

中村 清水館長の仰る通りで、私たちは「トップ・ボトム・アップダウン」と呼ぶ方法を取っています。基本は私もあくまで1プレイヤーですが、決めるべきときは決定を下す。「世界一の複合加工機メーカー」という高い目標も、皆と一丸で掲げていく。そうしたお互いがうまく混ざり合う組織を作っていきたいですね。

清水 欧州の機械を見ていると、自由な発想のものが多いですからね。そうしたユニークなアイデアがボトムアップで出てきたときにそれを後押しする環境が、日本のメーカーには少ないのではないかと思います。例えば「工具と工作物のどちらを動かしても良い」というくらい、社員を固定概念から解放してあげてほしいですね。日本だと「何台売れるのか」と横槍が入りがちですが、社長自身が「これは面白い構造だ」と一緒になってモノにする方向で動けば、もっと皆が知恵を絞ると思います。

Chapter3
ユーザーニーズの本質を掴め

本紙 工程集約による生産性向上や自動化などのニーズが増加しています。こうした声にどう応えますか。

中村 自動化でまず思い浮かぶのはワークの着脱ですが、そうした部分ではガントリーローダーや機内配置型のローディング装置、コンパクトローダーを内製で揃えています。他にも柔軟性を意識したロボットセル「Plug One」を開発。お客様ごとに異なる自動化の要望に対し、適したカードを切れる製品展開を行っています。昨年には、爪交換までをロボットで行う「Flex Arm」も発売しました。自動化の範囲を拡げ、お客様の負担を軽減するのが自動化における方針です。

また工程集約については、ターニング・ミーリング以外の加工の集約が昨今ではかなり広まっています。これはレーザーも含めた超複合的領域だけではありません。ギヤ加工や、ロングドリル加工時のガンドリルの加工機能を集約するといったアプリケーションの幅と、その際の精度を向上させるという作業が今後は重要になると思います。

清水 そうした方向は私も大切だと思っています。ただ、最近よく言われる「自動化や工程集約はユーザーニーズである」という表現に関しては、ユーザーニーズと工作機械メーカーの課題を混同しているのではないかと思うんですね。工程集約や自動化はあくまで工作機械メーカーの課題であって、ユーザーが何のために工程集約をしたいのかを聞かないと、間違った機械を供給してしまう。突き詰めるとやはり究極のニーズは高精度・高能率で、工程集約や自動化はそのための手段です。例えば「5軸はユーザーニーズだ」と言う向きが増えましたが、ユーザーが望む高精度・高能率が達成できるなら3軸でも良いんです。しかし多くは「ウチも5軸を作ろう」という方向に進みがち。そのあたりが混同されていると感じて色々な場で提言しているのですが…。

ぜひ中村社長にも、ユーザーニーズの本質を整理したうえで、現場に具体的な課題を投げてあげてほしいですね。ユーザーが望むものとメーカーが解決すべき技術課題を明確にし、それを開発者が共有しながらものづくりを進めることが大切だと思います。

中村 開発でいうと、我々は「バリューベーストの開発」という姿勢で一貫しています。要はバリューに即した開発ということです。まずはユーザーの課題を現場から具体的に洗い出し、その中から優先度の高いものに対して技術的なアクションを行う。例えばFlex Armも、製品の目的はすごくシンプル。「夜勤をなくしたい」というお客様がいまして、突き詰めてみると生産量を伸ばすために夜間も機械を稼働させなければいけないが、無人稼働ができず夜勤を無くせないということでした。その解決策として開発したのがFlex Armです。お客様の課題をセンサーのように把握し、それを開発に落とし込める体制づくりを開発の基礎として行っています。

清水 それを聞いて安心しました。ユーザーのニーズは「自動化したい」など漠然としていますが、自動化することで何を実現したいのかを一歩踏み込んで聞けるスタッフを育成し、開発にフィードバックする。そうした人材育成がすごく重要だと思うんですね。自動化や工程集約を行った先の目的を見据えた提案が必要です。

中村 自動化については先述の通りですが、機械に関しては加工にいかに立ち返るかも重要だと考えています。「この機械で削りたい物は何か」を明確にしたうえで、達成したい寸法公差やサイクルタイムなど具体的な指標を掲げ、機械・制御が一体で取り組む。そこを突き詰めるのが今も昔も重要ではないかと。

清水 まさにその通りです。例えば機上測定機能を付けても、測定時と同じ状態で機械が動いて初めて補正加工できるわけですから、良い運動精度を持つ機械を提供しなければ機能が形骸化してしまう。様々な機能を追加し、かつそれを実現できる良い機械を作ること。日本の工作機械メーカーの生産技術力を活かすうえでも、これが最も実際的な海外との差別化策になります。ソフト的な機能はすぐに後追いされますが、機能を「実現」できる機械を作るのは一朝一夕には難しい。こうした生産技術力を、自動化や工程集約などのニーズに応える背景としてしっかり保持してほしいですね。

Chapter4
「持続可能化」が新たな技術課題に

本紙 ものづくり業界でも「持続可能化」がキーワードになりつつあります。持続性に貢献できる機械とはどのようなものでしょうか。

中村 持続可能化でいうと、エコな機械は間違いなく今後必要とされると思います。欧州のお客様と話すと、一定の省エネ性能を満たさなければ、今後導入はできないという話も聞きます。消費電力の削減などの基本性能の追求は当然として、2020年から日本の全工場、そして本社オフィスでCO2フリー電力を使用するなど製造工程でのCNにも努めます。

また機械のオペレーターが集まりづらい時代になっていますが、これにはすごく危機感を覚えますね。複合加工機は「難しい」というイメージを持たれやすい分野ですが、それを誰でも簡単に使える状況にするためのサポート機能も充実させたいと考えています。例えば昨年、ツールセッターによる形状補正を半自動化するサービスを開発しました。画面にガイダンスが表示されるため、初心者でも作業ができる一方、ベテランからも「神経を尖らせる必要がなく便利だ」という声をいただきます。そうした機械を使いやすくするサポートも非常に重要で、我々としてはこの2つの観点で取り組みを進めています。

本紙 清水館長はいかがでしょうか。

清水 持続可能というと皆さんまずは環境対応をイメージされると思いますが、私は少し切り口を変えた提言をしたいと思います。1つはユーザーサービスの持続可能化。中村社長はすでに実践されていますが、購入後も機械が成長する仕組みを展開する。これもモノづくりの持続可能化という観点では1つの有効な手段だと思います。また海外製の工作機械ユーザーからは「日本の機械は瞬間最大風速は良いが、数年後に同じ精度を保てない」という声も聞こえる。長期にわたり精度を維持させるためのサービスも、機械性能の持続可能化と言えるわけです。

中村 機械屋の原点に立ち返ると、やはりユーザーには機械を長く使ってほしいですよね。ビジネス的な観点はひとまず置いて、1年でも長く機械を使ってもらうために必要な支援を行うのが大切だと思います。例えば海外に40年以上現役で動いている我々の機械がありまして、そのお客様には機械を30台以上購入いただいています。つまり機械を長く使用いただくことはビジネスに反するわけではなく、満足感が生まれれば継続的なお付き合いにつながる。そういう意味でも、機械屋の視点は忘れてはいけないと思いますね。

清水 これは米国発の考え方ですが、リコンフィギュラブル(再構築可能)という手法もあります。要するにユーザー自身の現場で機械を後天的に変身させられる、変身可能な機械。このような陳腐化しない構造の機械も、ユーザーからすると機械性能の持続可能性につながるかもしれませんね。要はハード・ソフトなど様々な面から持続可能というキーワードにアプローチできるわけです。ソフトのバージョンアップで持続可能にするのも面白い切り口ですし、多彩な切り口で持続可能性を発揮できる機械を作っていただければ。そうした付加価値を搭載し、その期待感で見合うコストを払ってもらうという良循環を生む機械が理想です。

中村 そうですね。中村留の機械は他社のものと少し構造体が異なるなど、まったく同じ土俵で勝負をしているわけではありません。仰るような付加価値勝負を、これからも社員一丸となって行っていきます。

Chapter5
ブレークスルーでコモディティ化とは言わせない

本紙 工作機械業界が抱える課題と、それをブレークスルーするための方策についてご意見をお聞かせください。

中村 私が思う課題はアピール面でしょうか。我々も含め工作機械メーカーは独自の価値・強みを必ず持っています。けれどそれが対外的に伝わっていないことも多く、場合によっては社内でさえ認識を統一できていないと感じています。共通認識を社内で醸成し、ユーザーにもそれを伝えなければならない。そのためには社員やお客様とオープンに話す機会が必要ですし、そうした自らの価値を再考する場を作ることが、経営者としても大切だと常々感じています。そこで当社では毎月、役職関係なく誰でも参加可能な「HINTの会」を開催し、会社で起こっていることや課題などの議題について、経営数字を示しつつディスカッションを行っています。そうした場で自分たちがどういった価値を伝えるべきかを改めて考えたいと思っています。

本紙 清水館長はいかがでしょうか。

清水 私が思う業界の課題は技術革新が苦手で、いわゆるオープンイノベーションの大切さは理解しつつもなかなかオープンにできない点。やはりこうした風潮を打破しなければ、欧州の工作機械メーカーに勝てないのではと思いますね。欧州は産学連携が盛んで、大学に様々な研究テーマを持ち込みつつ、核心部は秘密保持できているわけです。日本でも産学連携を活性化し、共同研究を行わないと大学も育たない。取り組みが1社で難しければ、何社かで協力しながら挑戦すべきです。

また、「若手社長の会」でも結成し、標準化できる部分はメーカーの垣根を越えて協力体制を築いてほしいですね。独自規格で雁字搦めにするのではなく、オープンな規格を業界を巻き込んで築いてほしい。共通規格を制定すれば、要素メーカーもそれに合致した良い製品を開発できます。こうした課題は以前から言われていますが、次代を担う中村社長には改めて取り組んでいただきたいですね。

中村 そうですね。先生の仰るオープン化は重要だと認識しており、私自身、工作機械メーカー同士の横のつながりや要素メーカーとの上下のつながり、また研究機関との産学連携の中で1つの共通課題を解決するという取り組みは、まだまだ足りないと感じています。工作機械メーカーは、誤解を恐れずに言えば同じ物を違うリソースで作っている側面がありますよね。そのあたりは確かにもっと効率化できると思いますし、最近はアジアのメーカーも急成長を遂げていますので、こうした背景を認識すれば手を取り合える部分も多いのではないかと。我々もNEDOのプロジェクトでCFRPとミネラルキャストを構造体に用いた工作機械を他のメーカーさんや大学の先生方と一緒に開発した経験があります。そうした知見が実際の製品開発に生かされることが重要だと思いますので、 多少費用がかかってもしっかり技術を進化させる組織づくりが重要だと改めて感じました。

清水 中村社長には固定概念を打破していただきたいところです。例えば複合加工機も、現行のものが定形版となって新しい構造形態のものは誕生していません。マシニングセンタは色々な構造形態が提案されていますが、ターニングはそれが少ない。けれど工具交換1つでも、欧州では様々な形があるわけですから、それをヒントにもっと自由な旋盤を作って頂きたい。固定化された旋盤ばかりでつまらないので、「面白い」と思わず唸るような5軸ターニングセンタの開発を期待しています。

中村 確かに欧州メーカーの独自性はすごく面白いですよね。日本市場ではお目にかかれないような構造の機械もありますし、清水館長が仰る革新的な機械については、具体的には言えませんが個人的に思う部分はあります。 私自身、機械構造や加工にはまだまだ進歩の余地があるのは間違いないと思っていまして、世界を見渡すと様々なアプローチによる取り組みがありますし、我々の中にもアイデアが山ほどあります。ありすぎて優先順位付けが難しいくらいです(笑)

最近はよく「加工技術はこれ以上発展しない」とか「構造的な発展は少ない」と言われますが、個人的にはこの業界をいわゆる「コモディティ化」とは絶対に言わせたくないですし、我々としてもそうした風に開発を進めなければいけないと思っています。比較的トライしやすい会社ですので、新たな構造形態は私のライフワークの1つとして頑張りたいですね。

清水 ぜひお願いします。最近はコロナ禍で展示会に行けないのが寂しくてですね。次回のIMTS(Internationai Manufacturing Technology Show)には行きたいと思っていますので、IMTSで驚かせてください。

本紙:お二人とも本日はありがとうございました。

(日本物流新聞 2022年6月10日号掲載)

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