6.6億人の巨大市場ASEAN

東南アジア諸国連合ASEANへの関心が高まっている。長くチャイナ+ワンとして注目されてきたほか、日米豪が唱えるインド太平洋構想と中国が交差する重要な位置にもあるからだ。加えてASEAN10カ国を含む15カ国による広域的な包括的経済連携RCEPが今年1月に発効し、アジアビジネスはますます活発化しそうだ。

【画像1】タイトルイメージ
【画像2】ASEAN10ヵ国の概要
【画像3】日本の主要貿易相手国・地域との貿易額割合
【画像4】RCEPの原産地証明書発給件数

RCEP発効でいっそう拡大する経済圏

1967年にタイ・マレーシア・フィリピン・インドネシア・シンガポールの5カ国が結成してできた地域協力機構ASEAN。84年にブルネイ、95年にベトナム、97年にラオス・ミャンマー、99年にカンボジアが参加しASEAN10が実現した。ここには20万人以上の日本人が駐在し、進出した日系企業は200万人以上の現地雇用を生み出しているという。

日本の対ASEAN貿易(輸出+輸入)は約20.5兆円で、対世界貿易(約136.2兆円)の15.0%を占める(2020年)。製造業に目を向けるとこの比率はグッと上がるだろう。米国や欧州は不動産や金融関係のものが多いが、東南アジアは圧倒的にモノづくりの比率が高いからだ。

世界の投資額の半分はシンガポールに集中している。東南アジアに詳しい帝京大学経済学部の中西宏太准教授はその理由を、NPOアジア金型産業フォーラムが3月31日に開いたWebセミナーでこう話した。

「投資がシンガポールに集中するのはASEANのゲートウェイだから。日本企業にとってはタイやベトナムなどの方が近く直接工場をつくることになるが、ヨーロッパや米国の企業がアジアのどこかに拠点をおくとなると東京かシンガポールか香港ということになる」

モノからサービスの貿易へ

ASEANは6.6億人の人口を抱えるが、個々の国の経済規模はけっして大きくなく、バラツキが大きい。一人当たり名目GDPはマレーシア(1万1239米ドル)、タイ(7274ドル)、ベトナム(2564ドル)という水準で、日本(3万9287ドル)の1970~80年代のレベルにある(「ASEAN情報マップ」から、2018年)。

ただ、中所得はいい面も悪い面もある。つまりずっと中所得であり続けるならば日本企業にとってはそこそこ安い労働力が得られることになる。一方で中所得のままだと日本製品の消費地にはなりにくく、市場としての価値は高まらない。

中西准教授はASEANはモノの貿易からサービスの貿易へ変わると指摘する。

 「いま世界の貿易はモノが75%でサービスが25%ほどを占める。コロナで加速され今後ネットの利用がもっと広がると半分くらいがサービス貿易になる。メーカーにとってのサービス貿易とはノウハウ、特許、知財など。リモートで工場の操業を支援するのもそう。今後加速するサービス産業の輸出を日本企業がどれだけ実行できるかが重要になる」

各国の戦略が交差するRCEP

アジアでの輸出入が活発化しそうだ。広域的な包括的経済連携RCEPが今年1月に動き出した。日本の最大の貿易相手国である中国と3位の韓国との間で初めて結ばれる経済連携協定ということが特筆すべき点だろう。

様々な業界で販路拡大の追い風になる。たとえば中国向けに輸出される熱延鋼板(自動車の鋼板などに利用)は厚さ1.5mm未満の製品の一部は6%の関税が撤廃された。歯科医でおなじみの歯科用ドリル(世界でトップシェアを誇るメーカーが日本にある)は中国に輸出するときにかけられた4%の関税が撤廃された。

ただ、RCEPは様々な国の戦略が交差したなかで成立した協定でもある。期待したようには関税がすぐに撤廃されなかった品目もある。

自動車部品の関税はそのほとんどが段階的な撤廃にとどまっている。エンジンのモーターポンプは1月から関税ゼロになったが、自動車用マフラーやボディ部品に対する減税が始まるのは11年後。カムシャフトのほとんどとギヤボックスの一部は16年目に関税が撤廃される。これらは中国メーカーも生産を手がけることから、したたかな戦略が見え隠れする。EVに絡んでもリチウムイオン電池は16年目、モーターは最大21年目に撤廃される。各国とも保護したい領域はあるということだろう。今後伸びるであろうグリーン関係なども同様だ。RCEPによる即効性は期待できないという声も聞く。

今回取材した、ASEANでビジネス展開する三恵技研工業(自動車部品メーカー)、朝日製型(ゴム金型メーカー)、山善アセアン支社はいずれも現段階ではRCEP発効の影響はないと言う。

ASEANの大成功?

しかしもちろん、メリットはある。通関手続きは48時間以内と規定され、より早く効率的にモノが移動することが後押しされる。東南アジアを狙う中国は、RCEPで定められたルールがネット通販の追い風になると見ている。

RCEPの発効はASEANの大成功だと中西准教授は見る。

「ASEANは経済規模からすると小国の集まりなのにずっと議長国を担ってきた。今度はジャカルタで会議をやるからと日本や韓国などを呼びつけ、議長の采配で(条件を)取り決めていった。日本と中国、日本と韓国の微妙な緊張関係を理解しているのでASEANがホストになれば丸く収まりますよねと」

日本が参加する経済連携協定はTPPやASEANとの協定もあるが、RCEPは中国と韓国が参加していることと、規模が世界最大級であることで別格と言える。より良いものへ変えていけるよう日本が主導していけるかどうかが問われる。

(日本物流新聞 2022年5月15日号掲載)

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