2022年版「中小企業白書」を読む〈1〉

キーワードは「事業再構築&自己変革力」
約700ページ及ぶ同白書のポイントを、図表を引きながらかいつまんで読み込んだ。

今年4月26日に閣議決定した2022年版「中小企業白書」は、感染症の流行や原油・原材料の高騰といった厳しい事業環境に直面する中小企業の実態を捉えながら、感染症を乗り越え企業の成長を手中にするための方策として、特に「事業再構築」「自己変革力」に着目してまとめている。

感染症下の再構築

近年の「中小企業白書」を振り返ると、新型コロナ感染症が蔓延する前は、地域経済を支えるキープレイヤーである中小企業がいかに経営力強化を図り、成長の機会をものにしていくかを、複眼的に考察する内容となっていた。「世代交代」、「自己変革」、「差別化」、「新事業展開」、「稼ぐ力」といった課題への対応策、その事例、支援状況などが綴られた。

対して2021年度版は、コロナ感染症の影響を分析しながら「危機を乗り越え、再び成長軌道へ」というテーマを白書の中に掲げた。そうして先ず、変化に合わせて経営戦略の見直しに取り組むことの重要性を述べた。

このように過去の白書を振り返ると、中小企業に対する白書の視座が一定程度、定まっていることが改めて感じられる。自己変革、新規チャレンジなどの必要性を毎回必ず説いてきた。

今回22年度版白書の内容も、事業者の「自己変革」をテーマに、ウイズコロナで、あるいはアフターコロナで必要な取り組みを取り上げている。ひと言でいえば、感染症下の事業再構築の必要性を強く説いたものといえるだろう。

なお中小企業白書は、毎年度、まとめた内容が4月下旬頃閣議決定となる。今年もそうであり、この工程面から白書が考察し提言する多くは昨年の状況をベースとしたものとなっている。各種調査結果はじめ参考資料などは年明け2月頃のものが最も新しく、それ以降の状況は反映されていない。原油原材料高、急激な円安、またウクライナ問題の深刻化などに関しては、つい最近の変化が激しかったぶん、白書の内容と現実にギャップがあることを否定できない。本紙のこの記事「中小企業白書を読む」では、足下の状況を補完的に書き足すといったことはしないが、最新の状況を胸の内で照らし合わせながら、白書が書く「本質部」に触れたい。

中小、依然厳しい状況

中小企業の業況については、業況判断IDで2020年4〜6月期にリーマンショック時の下回る水準まで急激に悪化し、その後一定程度急回復した。設備投資も増加に転じている。しかし白書は総論的に捉えて「足下では持ち直しの動きも見られるが、依然として厳しい状況」と述べている。

新型コロナウイルス感染症の影響については、ある調査で74%が「影響は継続している」と回答(2022年2月調査)しており、白書は関連して「新型コロナウイルス関連破たんの件数は21年9月から4カ月連続で月別件数として過去最高を更新するなど増加傾向にある」と記した。

中小企業の資金繰りに絡んでも懸念がみえる。持続化給付金や家賃支援給付金による支援をはじめ、金融機関においても実質無利子・無担保融資制度を活用しながら積極的な融資が行われ、貸出残高が増加しているが、その分、宿泊業をはじめ各業種で借入金月商倍率が上昇した。白書は「借入金の返済余力が低下している可能性がうかがえる」、「返済余力が低下している業種もある中で、今後の倒産件数や休廃業・解散件数の動向に留意する必要がある」などと記した。

さらに白書は、人手不足の状況や外国人労働者数の足下での減少を分析、原油原材料高の影響などとともに重くみた。また地域によってシャッター通りなどと呼ばれる商店街問題も取り上げ、実態調査で来街者数が減ったとの回答が全体のほぼ7割を占めている現実を考察した。

事業再構築の実施と効果

昨年12月の調査で、中小企業の経営者に「今後の不安要素」を聞くと、「原材料価格・燃料コストの高騰」が一年前の同調査から50%ポイント以上も増え、67%に達していた。また「人材不足・育成難」を挙げる企業の割合も上昇していた。不安要素はほかにも多いが、そうしたなかで事業再構築の必要性が高まっていると白書は捉えた。

ここで「事業再構築」とは、新たな商品の提供や商品の提供方法を変更するといったことを指す。「事業再構築」を実施しているかどうかとの中小企業への問い(昨年12月)では、感染症の影響の大きい宿泊業・飲食サービス業で実施割合が高いことが分かった。

白書が注目したのは、事業再構築を行った企業の多くで売上面の効果が出ていたことだった。「売上面で効果が出ている」ないし「売上面で効果が見込める」と回答した企業は6割前後に達し、それも事業再構築の実施時期が早いほど売上に効果が出ている企業が多いという結果だった。

さらに事業再構築に取り組む企業は、売上げ面の効果だけでなく、既存事業とのシナジー効果も実感していることが調査で分かった。新規開拓した販路の既存事業への活用等で効果を上げるケース等があったとみている。白書は、事業再構築の実施を検討することの重要性について、事例を交えながら記している。

2022年版「中小企業白書」を読む〈2〉につづく
(日本物流新聞 2022年5月25日号掲載)

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