現代の名工に学ぶ〈3〉

卓越した技能を持ち、その道で第一人者とされる技能者を厚生労働省が表彰する「現代の名工」。多くの職人や技能の世界を志す若者の目標として、令和2年度は150人が選出されました。仕事に対する姿勢、物事の考え方、後進の育成方針など―業種・業界を問わず名工たちに学ぶべき点は多いはず。今回はそんな令和2年度の名工から、義足装具士として活躍を続ける、鉄道弘済会義肢装具サポートセンターの臼井 二美男さんにお話を伺いました。

【画像1】臼井 二美男さん
【画像2】2020年8月に開かれた義足のモデルらによるファッションショー「切断ヴィーナスショー」で使用された義足も臼井さんが手がけた
【画像3】六角棒スパナで義足の調整を行う臼井さん

ものづくり7割、人づくり3割

使う人の生活を想像して

【義肢装具士】(公財)鉄道弘済会義肢装具サポートセンター 臼井 二美男 さん

【プロフィール】 うすい・ふみお 1955年群馬県生まれ。83年に(公財)鉄道弘済会・義肢装具サポートセンターに就職。以降、義肢装具士として義足製作に取り組む。通常の義足に加え、スポーツ義足の製作にも注力。91年、切断障害者の陸上クラブ「スタートラインTOKYO」を創設し、義足を装着しての陸上を指導。クラブメンバーから日本記録を出す選手も育ち、2000年のシドニーパラリンピックより日本代表選手のメカニックとして同行している。ほか、マタニティ義足やファッションを楽しむためのリアルコスメチック義足など、これまで世になかった義足を多数開発している。

病気や事故などで手足を失った人に手足をつくる仕事、「義肢装具士」。ともすればものづくりのイメージが強いですが、臼井二美男さんはそこまでものづくりの要素は多くないと話します。

「ものづくり7割、人づくり3割といった具合です。技術や知識よりも使う人の生活を想像し、愛情と思いを込めてつくることが重要だと考えています。手足を失った喪失感から、前向きな気持ちへ変化していく様子を見届けられるのが、この仕事の醍醐味です」。

臼井さんが義肢装具士になったきっかけは、偶然訪れた職業訓練校の一枚の貼り紙でした。

「大学中退後、特にやりたい仕事が見つからず、色々な仕事を転々としていました。しかし、当時付き合っていた彼女と結婚を考えるにあたり、定職に就かないといけないなと。どうせなら手に職がつけられる仕事がよいと考え、職業訓練校へ行きました。そこで『義肢科』と書いてある貼り紙を見つけて、小学校の先生を思い出しました」。

体調が悪いと休職していた先生が復職して戻ってくると、病気で足を切断したと説明をしながら義足を見せてくれたといいます。大好きな先生の変わり果てた姿を見て、子どもながらにショックを受けたことを思い出し、貼り紙を見つけた当日に入学願書を提出しました。

しかし家に帰ると義肢製作について何も知らないことが急に不安になり、現在の職場である鉄道弘済会に見学を申し込みます。その見学時に「欠員が出たから学校へ行かずに見習いとしてうちにこないか」と声をかけられ、職業訓練校へは行かずに就職したといいます。

「就職してからは学ぶことが多く、1日があっという間に過ぎる日々でした。使う人に合わせて作るオーダーメイド品のため一つとして同じものがない点に、難しさとやりがいを感じました。衝動的に決めた割に、この仕事は自分に合っているなと思えました。木材や樹脂のほか、カーボンファイバーなどの新素材、加速度計やジャイロセンサーを搭載した義足など、新しい技術に触れられるのも面白いです」。

スポーツ用やファッション義足も

日本におけるスポーツ用義足のパイオニアとしても有名な臼井さん。通常の義足製作の傍ら、スポーツ用義足についての情報や文献を海外から収集し、日本初のスポーツ用義足を製作。そして1991年には切断障害者の陸上クラブを立ち上げました。

「30年前は切断障害者で走れる人は日本にはいませんでした。夕暮れの海辺で恋人たちが互いに走り寄って抱き合うシーンが昔の映画によくあったじゃないですか。そういったシーンを見ていると義足の人は走って駆け寄ることができないし、手がない人は抱き合えない。私たち健常者からしたらありきたりなシーンですが、切断障害者の人たちは自分には関係がないと、目を背けたくなるシーンかもしれないと思いました。そこで、自分が義足をつくった人たちに『走ってみないか』と声をかけ、クラブを設立しました」。

1991年に数人で始めたクラブは、今では5〜77歳と幅広い年代の250人が参加しており、パラリンピックに出場する選手も輩出しています。

「スポーツの効能ってたくさんあると思います。心肺機能の向上など身体が丈夫になるほか、走れるようになった達成感から自分に自信がもてるようになったり、クラブのみんなとの関わりにより、コミュニケーション能力が高まったり。走れるようになるだけが目的ではなく、自立した生活へのきっかけや、笑顔で前向きに生きるための糧になればとの思いでクラブを運営しています」。

後進の育成、陸上クラブの指導など、多忙を極める臼井さんですが、現場での義足づくりはこれからも続けていきたいと話します。

「運動が苦手な人は別の分野で自信をもってほしい。やりたいこと、なりたい自分の実現のために色々なことに挑戦してほしい。おせっかいかもしれないけど、たくましく生きて欲しい」。そういった思いを込めて、臼井さんはこれからも義足をつくり続けます。

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