アジアの新ムーブメント

カーボンニュートラルの達成へ向けたうねりがアジアのモノづくり勢力図に変化をもたらしている。

【画像1】タイトルイメージ
【画像2】「BYD ATTO 3」
【画像3】ブラザー工業
【画像4】ヤマザキマザック
【画像5】(イメージ)

カーボンニュートラルの達成へ向けたうねりがアジアのモノづくり勢力図に変化をもたらしている。新エネルギー車(NEV:BEV・PHV・FCVの総称)で先陣を切るのは中国。日本がBEVへのスタンスを模索するなかで爆発的に普及を進め、新車販売に占めるNEVの割合は足元で25%に達した。洋上風力発電でもけん引役を果たし、2021年の新設量は同国だけで世界の約80%に達する。アダニショックに揺れるインドも「次なる中国」として存在感を高めており、日本企業は需要の取り込みに走る。

勢いに乗るBYDは1月末に日本発売モデル第1弾として「BYD ATTO 3」を販売開始

2022年末にゼロコロナからウィズコロナに大舵を切った中国。とはいえ厳しい活動制限やその後の感染者急増がもたらした経済へのダメージは大きく、特に22年10-12月期の景気は冷え込んだ。

中国自動車工業協会(CAAM)によると23年1月の中国の新車販売台数は約165万台と前年同月比35.0%減に。しかし内訳を見るとNEVが約41万台で全体の24.7%を占め、ここに限れば同6.3%減と必ずしも勢いを失ったとはいえない。23年1月に発表された22年の中国内の新車販売台数でも、NEVは約689万台と前年比93.4%増の大幅成長を果たしている。22年末に終了したNEV普及のための補助金に代わる新たな支援策次第ではあるが、電動車における中国の存在感は23年も薄まりそうにない。

新興EVメーカーが林立する中国市場。22年も様々なプレイヤーが激しい競争を繰り広げたが、際立ったポジションを確立したのは最大手のBYDだった。同社の22年のNEVの販売台数は約186万台と前年(約60万台)の3倍超に。こうした動きを受け、日本の工作機械メーカーも「日系自動車メーカーよりも現地の自動車メーカーの方が需要が活発」と足元の状況を語る。

現地需要をうまく取り込む1社がブラザー工業だ。同社ではEVシフトに伴い、中国での工作機械の販売が好調に推移。「電動化に伴う機能の複合化などでワークが大型化している。部品加工を行う企業からこうした大型化の需要があり、加工エリアの広いワイドストロークモデルのマシニングセンタ(MC)が売れている」と言う。車体の軽量化を狙ってアルミの使用量が増え、生産性の高い30番台のマシニングセンタが人気を集めているという背景もあるようだ。

ブラザー工業のMC「SPEEDIO W1000Xd1」はコンパクトな30番機ながら広い加工領域を持ち、EVシフトに伴うワークの大型化に対応できる

一方、「アジアでは横形MCが好調」と話すのはヤマザキマザック。特に中国では自動車向けの約半数をNEV向けが占め、横形MCをベースとした自動化ラインの受注が好調を維持しているという。

同社がもうひとつアジアで攻勢を強めるのが新型FSW(摩擦攪拌接合)加工機「FSW-460V」だ。昨年11月にタイで開かれた展示会「METALEX」に同機を出展したところ、ダイカスト関連のユーザーが連日来場して「EV量産化に向けた投資熱をうかがえた」という。アルミダイカストメーカーの多いタイでは、すでに一部のEV部品を他国製のFSW加工機で加工する動きがある。しかし加工品質で課題も多く、結果的にヤマザキマザックのFSW-460V加工機に関心が集まっているという流れだ。「FSW提案には加工機はもとより治工具や接合プロセスに至るまでワンセットで提供する力が必要」(同社)。こうした付加価値の高い加工では日系メーカーも勝ち筋を見出しやすいだろう。

ヤマザキマザックの新型FSW加工機はモータケースなどEV部品の量産を高品質&高速でこなす




洋上風力発電も中国から

中国市場で電動車以外に注目を集めるのが風力発電分野への投資熱だ。特に洋上風力発電でこの動きが顕著で、21年に世界で新設された洋上風力発電容量のうちおよそ80%を中国が占める(世界風力会議〈GWEC〉「グローバルウィンドレポート2022」より)。

長大な海岸線を持つ中国は遠浅の海が少ない日本の近海に比べて洋上風力発電に適したエリアが圧倒的に多い。この資源的優位性に政府による補助金政策が相まって、中国における洋上風力発電は急速な発展を遂げた。22年11月には国営企業の中国長江三峡集団が、世界最大出力となる16メガワットの洋上風力発電用タービンを福建省でラインオフするなど技術革新も進む。中国政府は再生可能エネルギーの年間発電量を25年に3兆3000億kWh(21年末比で33%増)にする目標を掲げており、洋上風力発電にはさらなる発展の余地が残されている。

こうした需要をうまく掴むのがオーエム製作所。22年の取材で、水田博・工機事業部長は「中国はいままさに『風力発電バブル』といった状況。6割以上の世界シェアを占めるGEとシーメンスの工場は中国にあり、こちらのニーズを取り込む形で当社機は直近で5割以上の受注増になっている」と話した。一方、大型の歯車加工機を手掛けるグリーソンの日本法人・グリーソンアジアの担当者は「中国では風力発電に関する投資が非常に活発で、大型の歯切盤の販売が足元でかなり好調」と言う。

ネクスト中国は?

ここまで中国の動向を中心に取り上げたが、近年存在感を高めているのがインド市場だ。インドの人口は23年にも中国を抜いて世界1位となる見通しで、22年の国内新車販売台数も日本(約420万台)を上回る約473万台とはじめて世界3位になった。インドで売れる車がそれほど多くの半導体を必要としないため調達難の影響を受けにくかったという背景もあるようだが、中間所得層の増加を鑑みればいよいよインド市場の重要性は高い。ヤマザキマザックやブラザー工業など、将来需要を見据えてインド国内に工作機械工場を立ち上げる動きもあり、多くの企業がその潜在性を注視している。

インド経済に詳しい神戸大学経済経営研究所の佐藤隆広教授は「インド市場で目先で利益を出すのは至難のワザ」と独特な市場環境を語る。目先の利益に右往左往する猫の目的な取組みではなく、腰を据えた投資が攻略の鍵を握る。

(日本物流新聞 2023年2月25日号掲載)

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