DX(デジタルトランスフォーメーション)が導く製造業の未来〈1〉

近年、私たちの音楽の楽しみ方は大きく変貌しました。従来のCDやネットからのダウンロードによる音源の購入から、ストリーミング、さらには月額定額(サブスクリプション)による聴き放題へ――。このように、長期的な視野でプロセス全体をデジタル技術で最適化し、高い競争力を持つビジネスモデルを構築することがいわゆる「DX」ですが、この変革の波は製造業にも押し寄せています。日本の製造業がグローバル競争力を勝ち得るためにも、いまこそ変化していく必要があるのではないでしょうか。

【画像1】DXがもたらす変化を表した図
【画像2】Society 4.0からSociety 5.0への移行イメージ
【画像3】シーメンス日本法人・藤田研一社長
【画像4】シーメンスは設計から製造まで一貫したデジタル化を提案している
【画像5】ダッソー・システムズ日本法人フィリップ・ゴドブ社長

DXを実現する「Society 5.0」とは?

Society 5.0(ソサエティ5.0)は2016年1月に閣議決定され、政府が策定した「第5期科学技術基本計画」のなかで提唱された新しい社会のあり方です。人類の歴史を紐解くと、狩猟社会がSociety 1.0、農耕社会がSociety 2.0、工業社会がSociety 3.0、そして現在の情報社会がSociety 4.0と定義づけられており、これに続く5番目の社会システムこそがSociety 5.0となります。内閣府ではこれを、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会と定義しています。

これまでのSociety 4.0では、人がサイバー空間に存在するデータベースにインターネット経由でアクセスし、情報やデータを入手することで分析を行ってきました。しかしそれゆえに知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が行われてこなかったという背景があります。ところがSociety 5.0では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、その結果がロボットなどを通じて人間にフィードバックされます。つまりそれによって、従来の社会システムでは実現できなかった新たな価値が産業や社会にもたらされるというわけです。

Society 5.0で実現できるものの具体例としては、自動運転の実用化が挙げられるでしょう。自動運転車の運行には、自動車のみならず自転車や歩行者など、あらゆる移動物の移動状況をリアルタイムで把握し、情報共有できることが大前提となります。そのために必要なのは、多数のセンサ類とビッグデータを処理できる通信網、そして適切な回答を瞬時に導き出すAI機器。これらがシームレスに繋がることで、新たなスマートモビリティ社会が実現します。

同様に、ロボットやドローンの普及で、危険度の高い作業や肉体を酷使しなければならない労働、男女差や年齢差といったバイアスのかかる作業の自動化や遠隔操作を実現できるようにもなります。

熟練技術の継承も可能に

Society 5.0を実現するための要素技術として挙げられているのは次の6点。
 ①CPS(Cyber-Physical System)における知覚・制御を可能とする人間拡張技術
 ②革新的なAI用ハードウェア技術とAI応用システム
 ③AI応用の自律進化型セキュリティ技術
 ④情報入力用デバイスおよび高効率のネットワーク技術
 ⑤マスカスタマイゼーションに対応できる次世代製造システム技術
 ⑥デジタルものづくりに向けた革新的計測技術

これらの要素技術が発展することにより、製造業も大きく変化します。例えばビッグデータに保存した膨大な需要や物流情報をAIで分析することで、新たな生産計画や在庫管理方法を生み出す。品質管理やトレーサビリティの部分においても、デジタル技術の活用によって、これまで以上に信頼度の高い製品を供給できるようになる――など。
 
さらには、AIとロボットの組み合わせによる自動化にも拍車がかかることが予想されます。生産の効率化や人手不足の解消はもとより、熟練技術の継承も可能になるかもしれません。これらの取り組みはすでに様々な企業によって行われていますが、今後はいかにブラッシュアップされ、普及していくかが課題となりそうです。

シーメンス&ダッソー・システムズ、欧州2強が描くDX

製造業における欧州の2大プラットフォーマー、独シーメンスと仏ダッソー・システムズ。設計・製造系ソフトウェアを中心としたデジタルトランスフォーメーションを推進する両社が目指す「次世代のモノづくり」を探ります。

シーメンスは2020年7月に行った事業説明会において、新型コロナ禍における、デジタル技術を生かしたモノづくりの「ニューノーマル(新常態)」と同社のデジタル基盤である産業用OS「MindSphere」について説明しました。シーメンスではコロナ禍後に、「デジタル化が一層広まり先進化する」「製造業とサプライチェーンに大幅な再調整をもたらす」の2つのトレンドが起こると見ており、こうした変化に積極的に対応していく姿勢を示しました。

シ社日本法人の藤田研一社長は「日本企業が強みとしてきた『現場・現物・現実主義』はデジタル技術の強みであるシミュレーションや標準化などと相性の悪い面があり、これらの折り合いを付けるのに苦労してきた。しかし、コロナ禍で『現場に行けない』などこうした今までのやり方が強制的に行えない状況が生まれ、社会全体がデジタル技術を活用したものへと変わろうとしている」と指摘します。

モノづくりにおける「ニューノーマル」としては、まずIoT環境の整備が進みDXの基盤が確立されると見込んでおり、それをベースにデジタルツインをはじめとするデジタルテクノロジーの高度な活用が進むという見方のようです。「いきなりデジタルツインなどの大きな価値を得ようとしても難しい。まずは、IoT環境の整備を進め、デジタル化への土台を作ることが重要。土台を作れば、CADからCAM、MES、FAまでを統合し、製品開発から製造設備計画までを一貫してデジタル環境で開発できる。当社のMindSphereならそれが可能だ」(藤田社長)。

また、今後はデジタル技術やオートメーション技術の提供にとどまらず、コンサルも行う構えです。「DXはジャーニーともいわれるような長い変革が必要になる。当社はこれらの領域にも踏み込みグローバルでコンサルティングサービスを立ち上げ、日本でも開始する。コンサルだけではなく、実装まで行える点が当社の強みだ」(藤田社長)。

バーチャル化が重要に

一方、ダッソー・システムズは20年5月に事業戦略説明会を実施しました。同社の「3DEXPERIENCE」は、製品の設計・開発から販売・マーケティングまで、あらゆるモノやヒトのデータを統合して3Dデジタル空間に再現し、モノづくりの全体最適を実現するプラットフォーム。同社ではコロナ禍を契機に「3DEXPERIENCEプラットフォーム・オン・クラウド」の販売に一層注力していく方向性を打ち出しています。「今後、企業に求められるデジタル化はさらに拡大する。これまではリモートワークに馴染まなかった業種でも、リスク管理強化や省人化/自動化、ワークスタイル変化などが進み、クラウド版はその受け皿となり、企業のビジネス転換をデジタルで支援していくことができる」(同社日本法人フィリップ・ゴドブ代表)。

今後のモノづくりにおいて、さらに重要度が増していくのは「バーチャル化」だと見る同社。「今後、デジタル化と並ぶ技術トレンドとしてはもちろんのこと、多くの産業分野、さらには社会全体のさまざまな局面において、バーチャル化が重要な役割を果たしていくだろう」(ゴドブ代表)。

また、Society 5.0をベースとしたDX推進については、「日本が目指す方向性は、われわれの掲げる事業目的『製品と人々の生活と自然環境の調和』と完全に一致するものだと考えている。その上で、日本のモノづくり企業が目指そうとしているミッションの達成に向けて、当社もしっかりと取り組んでいきたい」と語りました。

― DX(デジタルトランスフォーメーション)が導く製造業の未来〈2〉に続く

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