《対談》生産性高め、作業者守るアシストスーツ

10年ほど前から注目されるようになったウェアラブルの動作補助装置。介護分野で使われ始め、農業・製造・物流分野にも利用が広がってきた。作業者の身体を守るとともに生産性を高め、ユーザー企業にとっては人材採用時のアピールポイントにもなる。2022年8月4日に新製品を発売した東京理科大学発ベンチャー企業のイノフィスとウェアラブル装置を数多く販売してきた生産財・消費財商社の山善に互いの期待をぶつけてもらった。

【プロフィール】
株式会社イノフィス 代表取締役社長 折原 大吾 氏
株式会社山善 取締役 常務執行役員(機工事業部長)合志 健治 氏

普及が急加速 介護・農業・製造に物流分野へも

本紙 装着型動作補助装置「マッスルスーツ」の一番の特徴は。

折原 シリーズとしての特徴は作業の負担を軽減させるもので、業界では外骨格型の(フレームをもった)アシストスーツと呼んでいます。アクチュエーター(動力源)は機種により違いがありますが、いずれもバッテリーやモーターを使わずにアシスト力を発生させる。そのため屋外や天候が悪いときでも場所を選ばずに使えます。

本紙 2020年3月にシリーズの累計出荷台数1万台を突破され、21年4月には2万台と普及が急加速しています。

折原 市場の盛り上がりを感じています。もっともコロナ禍には減速した時期もありました。本シリーズはお客様を訪ねて説明が必要な「説明型の商品」ですが、近年はオンライン営業を活用して販売を伸ばしてきました。もともと介護現場向けでしたが、価格を含め機能の改良で農業や製造業と顧客層が広がってきました。工場は自動化の流れにありますが、自動化の合間にどうしても人の介在が必要な作業、あるいは自動化のソリューションがフィットせずマニュアルで行う作業が残ります。一方で現場は高齢化し、人手が足りていません。富士経済さんのレポートによると、外骨格型のアシストスーツで数量ベースで当社は60%以上の販売シェアを占めているそうです。

本紙 山善で「マッスルスーツ」を取り扱うようになったきっかけは。

合志 工場内あるいはサプライチェーン向けの作業環境改善機器は1つの大きなアイテムとして当社はずっと取り扱ってきました。腰痛対策としてアシストスーツを扱おうとメーカー何社かとコンタクトをとって考え方や使い勝手、機能、コストを考慮し、良いと判断したのがイノフィスさんでした。今後大きく伸びる商品だと考えたのですが、当初は非常に苦労しました。というのは最初の製品はコンプレッサーから圧縮空気を得てオン・オフを切り替えるものでしたから、作業性が悪く重量がありコストも高かった。お客様から興味は示していただけるものの成約にはなかなか結びつかない。ただ、イノフィスさんには現場の声を取り入れていただき、機能だけでなくコストも見直していただきました。また当社の消費財の事業部でも取り扱い始め、2018年あたりから成約が大きく増えました。

折原 19年11月に「マッスルスーツエブリィ」を発売し、ダウンタウンの浜田雅功さんのCMの効果もあって知名度は上がりました。この2、3年で販売先が増え、介護・農業・製造向けがバランスよく育っています。今後は物流分野を加えていくので、成長の余地はまだまだあります。物流分野での成約率が高くなかったのは、アシスト力は強いが装着時にしゃがみづらい、動きづらいというマイナス部分があったからです。そのマイナスとプラスのトレードオフのバランスのなかで、物流分野に関してはマイナスの部分が勝っていたのかと感じます。多用されると想定される倉庫でのマニュアル作業は重量物というよりは10kgほどのものを抱えてスピーディーに移動し高さの変化もあるからです。従来のアシストスーツのパワフルさは一部では生きるものの力の裏返しの歩きづらさ、しゃがみづらさがどうしてもネックになります。ただニーズがあることは確信できたので、新製品の発売につながりました。

合志 当社は取り扱い始めからずっと製造業、物流業向けにPRをしてきましたが、折原社長がおっしゃるように長所と短所があることを感じていました。これまでにどんな顧客にどんな提案をして反応はどうだったのかというデータがありますから、新製品が登場したことで、再度そこにアタックしていきたいと思います。いま多関節ロボットやAGV(無人搬送車)の引き合いが多い。お客様の一番の課題が自動化、省人・省力化、それに工程間移動だからです。そのすき間で人が細やかに様々なモノに対応していく作業があります。それには人を補助する装置が適します。当社はアシストスーツを単体で売るのではなく、物流・マテハン機器と合わせて提案していくことでさらに販売数を増やせます。

軽くて動きやすい新製品

新製品「マッスルスーツGS-BACK」(補助力13kgf)は移動が多くしゃがむ、立ち上がる動作に向く。

本紙 新製品「マッスルスーツGS-BACK」を8月4日に発売されました。大きな特長は。

折原 1つ前の「エブリィ」はとにかくパワフルで空気の入れ具合によって力を変えられます。弱みは一番下までしゃがみづらい、背面のフレームに多少厚みがあるため狭い場所での作業に不向きな部分があります。新製品「GS-BACK」はエブリィの弱点を克服し、小さく軽く動きやすい。これまでのマッスルスーツと同様にパッシブ型(電源不要)でアクチュエーターをガススプリングにして小型化し、背中部分をすっきりさせました。

合志 ガススプリングは小さく、これを使えば競合他社も同じような小型スーツを作れてしまえそうですね。

折原 ガススプリング単体はたしかに真似できます。ただし、これを組み合わせて動きの機構にしたときに現場の労働負荷を軽減するようなトルクプロフィールをつくり上げられるかどうか。たとえばしゃがんだ時にどこにどんな力が加わってどのあたりから力を弱めるかという味つけについてはノウハウが入っています。ねじれの大きな力も加わり、それでも何十万回と動いても壊れない設計です。当社の製品は腰部分が2軸で、人間の腰の動きに近い。アシストは2段でかけており、直立の状態から歩くときは表側に付けた引張ばねのみが作動し、ある程度ばねが伸びると裏側のガススプリングが機能します。これにより歩きやすさを実現します。でもこれが100%の答えではなく、初めからしっかりと強い腰へのアシストが必要な作業のお客様もいらっしゃり、この用途には長時間の中腰姿勢の作業にも有効なエブリィのほうが適します。

合志 当社は国内については販売店5500社余り、海外についてもネットワークがあり、家庭機器事業部にはホームセンター、GMS(General Merchandise Store=総合スーパー)やネット通販が、住建事業部にはビルダー、工務店といった販路があります。カタログに付けたQRコードから動画を読み込んで使い方を説明して、商品を貸し出せばもっと多くのお客様にアプローチできます。それにリアルの展示会として「どてらい市」や専門展を全国で開催する一方、環境や物流をテーマにした展示会にも出展しておりPRしやすい状況にあります。

折原 山善さんの幅広いネットワークは大変ありがたいですね。日本の少子化による労働力不足はけたが違うくらいにインパクトが大きい。10年間に500万人の労働人口が減ると言われていますから。オートメーション化は進んでいくのですが、すべてが自動化されるわけではない。これまで現場の労働に入りにくかった女性や年配の方でも、負荷を低減するソリューションがあれば生かせます。現在よりも未来のほうがその傾向は強まり、市場は拡大します。足元で成長率は5~10%くらいですが、どこかで爆発ポイントが来ると思います。それが来年なのか5年後なのかわかりませんが、必ず来ます。自転車のように誰もが気軽に使って便利さ、効率アップ、負荷の低減を受けられるようにしていきたいです。

パッケージソリューションとして提案

合志 シニア、女性の活用は進むでしょうね。ただし厚労省の指針では、人力で取り扱う物の重量は体重のおおむね40%以下、女性では男性が取り扱える重量の60%くらいまでとするとしており、補助装置などで作業負担を軽減することが望ましい状況です。先行逃げ切りではありませんが(笑)、今のうちに一生懸命、市場に働きかけていくことが大事だと思います。

折原 当社のようなベンチャーは直販だけではたかが知れています。山善さんには引き続きコモディティ売りではなく全体のパッケージソリューションの中で絵を描いていただき、そのなかで機械化できない作業にはコレだというかたちで提案していただけるとありがたいです。

合志 2014年頃からいろんな苦労を一緒に経験してきましたから土台はあり、商品の理解も多少はしています。これを踏まえて従来からやってきたことを粛々とやっていく。新規の顧客開拓の考えもあり当社はここ1、2年、商品によってはサポートセールをつくろうとしています。やはり営業マンは次から次へと展開していかねばなりません。ある程度の仕掛けをしてお客様とコンタクトがとれたらそれ以降は専門の人間が対応していきます。

折原 当社としてはこんな新製品です、だけでなく、なぜこんな構造なのか、どこで苦労したのかも説明させていただくように営業スタイルを変えていこうとしています。当社の製品に対する思想、他の製品との違いが伝わりやすくなると思います。

合志 いま取り組んでいるのは当社の会議室をスタジオにして、ウェビナー形式で全国の約500人に一斉に伝え、興味を示した人には全国にいる当社の社員が再度提案するという活動です。ウェブとリアルのいいとこ取り。少しは成長しました(笑)。

折原 動きが多い物流の現場の方にもぜひトライしていただきたいのがGS-BACKです。腰が痛い、負荷が大きいから装着するというケースが今は多いのですが、身体の負荷を少しでも低減させ、痛めてしまうリスクを軽減させてより働きやすい環境をつくろうという考え方もあります。そこにお役に立てるのではないかと思います。

合志 採用活動で人の取り合いになっています。そこにもアシストスーツは強力な武器になりますしね。

折原 アシストスーツで作業者の負荷を減らしています、真剣に考えていますというのは大事なアピールポイントになりつつあると思います。集めにくい人をどう集めるか。リクルートの面でも貢献できるといいですね。

(日本物流新聞 2022年8月25日号掲載)

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